第六章 仔猫を助けて 2.仔猫どこの子?
~Side ネモ~
「可愛い~」
「ふわふわ~」
「シャティって名前なの?」
「にゃ」
目下、俺の机の周りにはクラスの女子たちが群がっている。……〝俺の周り〟ではないから、間違えないように。
勘の良い向きは既にお察しだろうが、俺の机の上に居座っている仔猫が原因だ。俺は邪魔だと追っ払われたよ。くそ。
今朝、登校途中に木から下ろす事になった仔猫だが、どうやら飼い猫だったらしく、綺麗な首輪を付けていた。チビたちには飼い主の心当たりは無いらしく、それはアグネスも同じ。唯一の手掛かりは高そうな首輪と、そこに付いているネームプレート。薄い金属板――真鍮じゃないかと思う――に彫られた「シャティ」という名前だけだった。どうやら仔猫の名前らしい。
どうせなら、鑑札みたいに飼い主の名前と住所を書いておけばいいのにとぼやいたが、そういう習慣はこちらの世界には無いらしい。考えてみれば、ペット自体があまり多くない上に、ペットに首輪を付ける事自体が一般化していない。況してそれが迷子になった時の事まで、普通は考えないかもな。
「……おぃ、猫っ可愛がりはいいが、飼い主の心当たりの方はどうなんだ?」
そう。毛並みの良い仔猫で高そうな首輪という事で、上流階級の飼い猫じゃないかという推測が当然成り立った。
そうすると、上流階級の生徒が多い――と言うか、俺以外の全員――Aクラスに連れて行って心当たりを探してはどうか。そう提案したアグネスに対して、俺は有効な反論ができなかった。アグネスのいるBクラスも上流階級の子女は多いが、それでもAクラスほどではない。結局はアグネスの言うとおり、まずAクラスから始めて心当たりが無ければBクラス……と順送りにする事になった。
仔猫が俺を警戒して引っ掻いたりしなかったのは幸いだった。……目つきのせいなのか、俺を怖がる動物が多いんだよ(哀)。
「う~ん……猫なんか飼うのは大抵女性だからね、僕個人は心当たりは無いけど、母親とかに聞いてみるよ」
――と、役に立たない意見を寄越したのは、KY男子代表のエリック・カルベインだった。こいつ、短い金髪に青い瞳と見た目だけは良いんだが、口を開けば残念が零れ落ちる〝ぱっと見プリンス〟なんだよな。ま、クラスの女子どもには早々にバレちまってるわけだが。
「……おぃカルベイン、お前、寮生だろうが。どうやって家に連絡するつもりだ?」
「え? ……週末に家に帰った時にでも?」
「……今日は週明け早々の木の日だぞ? 次の週末まで一週間近く。その間猫をどうしろって言うんだ? 宿屋に一匹だけ残しておけってのか? それとも、毎日学校に連れて来いって言うつもりか?」
「え……えぇと……」
じろりと軽く――スキルは使ってない――睨んでやったら、途端に狼狽えやがった。やっぱり何も考えてなかったな。
「はぁ……通信の魔道具を持っていますから、実家に連絡しておきますわ。けれどその前に、教官室に行って先生方に相談してはどうですの? 担任の先生方を通じて各クラスの生徒に問い合わせてみれば、あっさり見つかるかもしれませんわよ?」
・・・・・・・・
結論を言えば、ドルシラお嬢の言ったとおり担任の先生方を通じて問い合わせたら、あっさりと飼い主が特定できた。一年Cクラスに在籍する女生徒だそうだ。
どうもこの仔猫、飼い主を慕って家から抜け出してきたらしい。
同じような事が度々起きても困るという事で、特別に寮の私室――個室だそうだ――で飼う許可を貰ったらしい。飼い主の女生徒からは礼を言われたので、一年Bクラスのアグネスにも一言礼を云ってくれとだけ伝えた。
これにて一件落着と言いたいところだが……俺は一つ気になっている事がある。
――ゲームにこんなエピソード、あったっけ?