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第五十章 仮免舞踏会の夜 4.舞踏会開幕

 ~Side ネモ~


 ネイトさんの言うには、この音楽は舞踏会開始の合図なんだそうだ。俺は何も知らなかったが、その辺りはジュリアンやお嬢たちが説明してくれる筈だったんだろう。……あいつら放っといて悪い事したな。ま、その辺りの事情もネイトさんに説明してもらおう。


「ネモ君のパートナーはどこなんじゃね?」

「パートナー……?」

「ふむ? 開幕のダンスは全員参加が決まりじゃが?」


 ……聞いてねぇ……マジかよ。俺は会を通して壁の花……つーか、壁の(こけ)に徹するつもりだったから、パートナーなんざ決めてないぞ? 近寄って来るようなやつがいたら、【眼力】で()(かく)してでも追っ払うつもりだったし。


「……開幕時はパートナーと一緒におるのが通例で、言い換えれば今の時点で隣におるのがパートナーという事なんじゃが……」


 ……知らんぞ? ひょっとしてお嬢がパートナーを務めてくれるつもりだった……無ぇな。背丈が違い過ぎるわ。誰か適当なのを紹介してくれるつもりだったのかもしれん。

 ……いかんな、知らん事とは言え義理を欠いちまった。詫びは後で入れるとして、パートナーは……今から急いでお嬢を探すか?


「ネモ! あたしと踊ろ!」

「は? ……ミリーとか?」


 幾ら何でも背丈が違い過ぎだろ? お嬢どころの騒ぎじゃねぇぞ?


「うん! 去年一緒に踊ったやつ!」


 去年って……あー……あれか。()(きょう)にネイラやネロを振り回してたやつ。……確かにミリーも巻き込んだ憶えがあるな。けど……幾ら何でもアレは……とか考えてると、


「ふむ……面白いかもしれんな」

「ネイトさん?」


 ネイトさんがとんでもない事を言い出した。……いや、その時はとんでもない事だと思ったんだが……


「確かに(じょう)(せき)を外れてはおるが、背丈の差がその理由となるし、パートナーの理由は旧知の間柄という事で押し通せようて。何より――」

「――何より?」

「開幕ダンスの相手がミリーとなれば、()(ぞう)()(ぞう)が寄って来るのを多少は防げよう」

「……()(ぞう)()(ぞう)?」

「おや? ネモ君は気付いておらんかったかの? ネモ君が姿を見せた瞬間から、君目当てのやつらが目を光らせておったがね?」

「何ですと……?」


 俺目当てって……冗談じゃねぇぞ。

 アスランの話じゃ、俺は場違いだから、そういった面倒な連中は声をかけてこないだろう――って事だったんだが……ネイトさんの話だと、そういった場違いを気にしない面倒な連中もいるそうだ。……そう言えばアスランも、面倒な連中はジュリアンが王家の顔で追っ払うような事を言ってたが……()く考えるとそれって、王家やお嬢と繋がりのある者は、無下(むげ)に追い払えないって事だよな?


「何、(わし)の顔でも()(ぞう)()(ぞう)を追い払うぐらいの事はできるし、この後で殿下のところに挨拶(あいさつ)に行けば、二重の牽制になるというもんじゃ」


 おぉ……ネイトさんもさすがに大物貴族だな。考える事がアレだわ。

 ……どうせジュリアンやお嬢たちには詫びを入れに行かにゃならんのだし、ここはネイトさんの策に乗っておくか。


「正直、ネモ君を王宮(ここ)の舞踏会に招くという案が出た時、反対すべきかどうか迷うたのじゃよ。ネモ君がこんな格式張った場を喜ぶとは思えんかったしの。……じゃが、こういう場でもなければ、(わし)らがネモ君に接触する機会は中々無いでのぅ」


 〝ミリーの事を考えると……〟と言われると、俺も返す言葉が無い。ネイトさんも()(かつ)な事は言えない立場だろうしな。


「それはもういいですよ。それより――行くか、ミリー」

「うん!」


 丁度ダンスも始まるみたいだしな。

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― 新着の感想 ―
ネイト爺さんが凄く策士に見える(笑)少なくとも歯噛みしている貴族は居るだろうし。
お嬢のところのアグレッシブじいさんよりも上手やー。お嬢が頭抱えてるだけあるな。 てか、元々のパートナーは誰だったんだろ。
これが有力貴族の立ち回り…
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