第四十九章 ボタン案件 1.「フクロウの巣穴亭」
~Side ネモ~
スカイラー洋品店を出て下宿に戻って来ると、女将さんが学園からの伝言を預かっていた。俺宛の小包が届いているので、受け取りに来てほしいというものだった。……小包?
はてねと思いながら学園の学務室に行くと、そこで手渡されたのは……
「……ゼハン祖父ちゃんから? 一体何だ?」
田舎からの小包と聞いて、直ぐに思い付くのは食い物関係だ。ただ、その場合は色々纏めて送ってくるのが普通だから、それなりに大荷物になる筈なんだ。
なのに、この小包は小さい上に軽いんだが……一体何を送ってきたんだ?
下宿に帰って包みを開くと、中から丁寧に梱包されて出てきたのは……
『これなーに? マスター』
『貝殻かよ……すっかり忘れてたわ。……あぁ、残念ながらこれは食いもんじゃないな』
『ざんねんー』
夏に帰省した時に祖父ちゃんに頼んどいた、ボタン素材用の貝殻だった。ボタンを削り出せるくらいの大きさと厚さを持った貝殻を、適当に物色してくれるように頼んでおいたんだが……これ、中身が入ってないか?
『……できるだけ人目に付かないように――って注文を叶えるために、食材に使われてる大きめの貝を集めたのか……』
生の貝をそのまま送るような事はできないから、燻製とか干物になったやつを集めたみたいだな。……ふぅん、見栄えがどうこうと言い立てて、貝殻込みで集めたのか。祖父ちゃんも相変わらず抜け目が無いな。
しかし――これで……
『ヴィク、どうやら中身も一緒に送ってくれたみたいだから、後で一緒に食べような』
『たのしみー♪』
前世で食った貝紐みたいなもんか? だったらこのまま食べられそうだが。……いや、水で戻して食べるやつもあるのか……って、これってアワビの干物じゃないのか? 中華料理の高級食材だった? 祖父ちゃんにしちゃ随分と張り込んだ……あぁ、そこまでの年代物じゃないから、お値段もそれなりってやつだったのか。まぁ、アワビなら貝殻もボタンの素材に使えそうだし、問題無いな。
『ほらヴィク、こいつを食ってみろ。あぁ、直ぐに呑み込むんじゃないぞ。そのまま暫く口に含んで、噛めば噛むほど味が出て来るからな』
『むー むずかしーい』
あぁ、スライムにゃちと解り辛いか。
『ほら、こうやって暫く咀嚼しながら口の中で解していくとな、段々と味が滲みだしてくるんだ』
『むー やってみるー』
ヴィクは暫く試行錯誤していたが、やがて消化吸収しないままに体内に漂わせる遣り方を憶えたようだ。
『おもしろーい♪ あじがじわーっと しみだしてくるねー』
『だろ。干物なんかは大抵こんな風にして食べるんだ』
町で売ってる干し肉なんかはスープの具にする事が多かったし、前に作った燻製だと、ここまで乾ききってなかったからな。
ヴィクもこれで「ほおばる」って味わい方を憶えたみたいだし、今後は食生活の幅も広がるってもんだ。




