第四十八章 歳末ガラクタ市~市中編~ 5.ナイジェルの謝辞
~Side ネモ~
食器選びイベントでのナイジェルの逃亡を阻止した後、女子三人組がきゃあきゃあと小物を選ぶのをナイジェルと所在無げに待っている――ナイジェルが逃げないように見張っているとも言うが――と、そのナイジェルが怖ず怖ずという感じで話しかけてきたんだが……礼って何の事だ?
「いや……今更って感じなんだが……武闘会の時の事なんだ」
武闘会? ……俺、何かしたか?
「いや……俺も冬休みで家に帰って、家族と話してて知ったんだけどな……」
ナイジェルの話を纏めると――俺が武闘会で蹴散らしたヘナチョコは、ナイジェルの父親に無茶振りをしていた騎士家のやつだったらしい。あぁ、ナイジェルの父親は冒険者崩れの研ぎ師で、鍛冶師の工房に雇われてるんだそうだ。母親の方は仕立ての内職をやってるらしい。
で――
「親父は〝良い気味だ〟って喜んでたけど、もし俺があいつを叩きのめしてたら……」
「あぁ……逆恨みして、親父さんの方に意趣返しをする可能性もあったわけか」
確かにあのチンピラっぷりからすると、そんな下衆な真似に出る可能性も捨てきれんな。だがまぁ、十二才の小僧っ子相手にあんだけ無様な真似を晒したんだ。恥ずかしくって表を歩けないんじゃないのか?
――そう言ってやると、ナイジェルのやつは妙な目付きで俺を見た。
「……あのなネモ、その背格好と目付きを見て、十二才だって思うやつなんかいないからな」
むぅ……自覚はあるが……面と向かってはっきり言われると堪えるな。
「それだけじゃなくて、お前、あの後でアレンと五分に渡り合っただろ。あれを見たせいで、多少は無様な姿を晒しても仕方がない――って感じになったらしい」
……何だよそりゃ。
つまり――釘を刺すのには失敗したって事か? 改めて出向いて脅し付けたが良いか?
「いや、それは大丈夫だ。あの時バルトランが一緒にいてくれたからな。多分だがそれを見て、迂闊な真似はできないと思ったみたいだ」
「ほぉ……あんなやつでも少しは役に立ったわけか」
「……ネモは随分評価が辛いな?」
「郊外キャンプで薪に火を着けようとして、ファイアーボールをぶっ放した話は聞かなかったのか? あの件を思い返してなお、同じ感想を抱けるのか?」
「いや……それは……」
それに、厳密に言えば抑止力となったのは、レオ個人というより実家の権勢だろうが。いやまぁ確かに、あいつ個人が物騒なのも事実だが。……そう考えると、レオ個人が抑止力として機能した可能性も捨てきれんか。……信管の感度が鋭敏すぎる爆弾みたいなもんだな。
「ま、結果的にあいつの存在が抑止力になったってんなら、後で何か土産の一つも持ってってやれ。感謝を形にして表すのは大事だぞ」
「……そうする」
・・・・・・・・
露店の前でナイジェルと結構な長話をしていたんだが、お嬢ちゃん方は一向に腰を上げやしねぇ。さすがにイラつ……気になって後ろから覗き込んだ俺たちが見たのは、小振りの花瓶を前にしてウンウンと唸ってるレベッカと、その両脇で小首を傾げているクラリスとメイベルの姿だった。




