第四十八章 歳末ガラクタ市~市中編~ 3.女三人揃うと……(その1)
~Side ネモ~
ガラクタ市の始まりがいつの頃からなのかは判らないという。
何でも最初は慎ましく、ご近所の不要品交換会程度のものだったらしい。そもそもは学園が不要品処分を始めたので、それに期日を合わせるようにして始まったのが事の起こりだとも言われているそうだ。そこにいつしか行商人までがガラクタを持ち込むようになって、王都を挙げての不用品バザーに成長して今に至る……というような事を、俺の横でしたり顔で説明してくれているのは、ナイジェルの妹のメイベルだ。
「年末の大掃除が切っ掛けになって始まったらしいんです。だから『掃き出し市』って呼ぶんだと、近所のお婆ちゃんが教えてくれました」
「『掃き出し市』ねぇ……」
言い得て妙なネーミングだな。成る程、こないだ錬金術の課外授業で使ったようなガラクタは、こういうところでも入手していたのか。学園内のガラクタ市と併せると、さぞや色んなものが手に入るだろうよ。
「ネモさんが一緒に来てくれて助かりました。女の子三人のガードマンとしては、お兄ちゃんは少し頼りないですから」
そう、女子三人。メイベルの他にクラリスとレベッカ、それにナイジェル。俺とヴィクを含めて総勢六名の臨時パーティになっている。女子三人に群がってくる野郎どもを追っ払うのに、ナイジェル一人じゃ貫禄不足……って言われて同行する羽目になったんだが……
「そのナイジェルが心なしか黄昏れてんだが?」
「気にしないで下さい。お兄ちゃ……兄はいつもそうですから」
……そう言やこいつはゲームでも、実力の割にセンシティブなところのあるキャラに描かれてたっけな。リアルでもそうなのか。
「兄と違ってネモさんなら遠くからでも目立ちますし、効果抜群ですね!」
……褒められてんのかもしれんが微妙だな。要するに、俺がデカくて恐いって事を言ってるだけだよな。だから……ナイジェルよ、そう凹むな。背が低い事を気にしてんのかもしれんが、ゲームの本編じゃちゃんと伸びてたから大丈夫な筈だ。
「まぁ、虫除けの代役を仰せつかるのは構わねぇんだが、どこに付き合えばいいんだ? 俺の方は冷やかし半分で見てただけだから、気にする必要は無ぇぞ」
これでも女の買い物には慣れているしな。前世現世と母親と妹の付き添いをさせられたもんで慣れてるんだよ。荷物持ちと虫除け代わりだがな。
「あたしたちもそんな感じです。一応、小物とか食器が目当てなんですけど」
俺だってこちらでの生活がそれなりに長いんだ。前世の日本と違って、アクセサリーの類が手に入りにくい事ぐらいは解ってる。けど、古着ならそこそこ手に入るから、女子ならそっち狙いだろうって思ってたんだが……外れたらしい。やっぱり女心ってやつは解らんな。実家でも母さんやネイラから注意されたんだが。
「あ、いえ。あたしたちだって、服やアクセサリーは欲しいですよ? ただ、丁度好いのが中々無くって」
「うん? アクセサリーはともかく、古着はそれなりに出廻ってないか?」
「丁度好いサイズのが無いんですよ。ネモさんは大人用をそのまま着られるんでしょうけど」
あー……サイズかぁ。確かに、子供服の古着ってのはあまり見ないか。赤ん坊だとてるてる坊主みたいに一枚布で包まれてるだけ――ってのも結構見かけるしな。
……いや、教会のバザーはどうなんだ? ゲームだと教会付設の孤児院の子供が、ちゃんと身に合った服を着ていたような……確かそんなスチルを見た気がするんだが。
「教会に寄付されたものは、孤児院や救貧院に優先的に廻されるのよ」
「だから寧ろ孤児院の子供たちの方が、身の丈にあった古着を着ているみたいですよ」
俺の疑問に答えてくれたのはクラリスとレベッカだった。メイベルもウンウンというように頷いてるが。
「ワケあり品を安く放出する店もあるみたいですけど、やっぱりそれなりのお値段しますしね」
「だから、教会主催のバザーに行くのは大抵大人。あたしたちの服は大人用の丈を詰めて――っていうのが多いわね」
「安物掘り出し物を狙うなら個人の出店ですけど、こっちは効率悪いんです」




