第四十八章 歳末ガラクタ市~市中編~ 1.ネモ、出陣
~Side ネモ~
終業式の二日後、別の言い方をすれば班のやつらに飯を奢らせた二日後、俺とヴィクは街中へ繰り出して、王都のガラクタ市ってやつを見物していた。
『たべられないもの ばかりだねー マスター』
『まぁな。普通に食べられるもんなら、こんな場所へ持ち込んだりはしねぇんだろ』
『なるほどー』
『ま、食い物関係は別の場所に纏まってるって可能性もあるけどな』
町を挙げてのガレージセールって言うか、フリマみたいなもんだから、古着とか半端道具の類が圧倒的に多い。あとは食器とかな。間違っても熊の木彫りや掛け軸、壺なんてものは無い。
行商人が中心となる大市なんかだと、それなりに珍しい品々も並ぶそうだが、今回は住人が中心のガラクタ市だもんな。そこまでの珍品や掘り出し物は無いわけだ。
まぁ、実用品が中心と言えなくもないが……あまり食指は動かんな。強いて挙げれば衣料品だが……幸か不幸か、俺はこの歳にしちゃガタイがでかいから、大人用の服がそのまま着られるんだ。……にしても、あまりパッとしたものは無いな。
案外と着古してない子供服なんてのも出てはいるが……なぜか一張羅の晴れ着って感じのが多くて、弟妹たちの普段着にゃ使えそうにない。言うなれば〝帯に短し襷に長し〟――ってところか。
……何でこんなところに出品されてるんだ? 古着屋にでも持ってけばそれなりの値段に……あぁそうか。需要がニッチ過ぎて、古着屋に持ってくと買い叩かれんのか。それくらいなら一発当てるのを狙って、こういう場所で売るってわけか。畳んでおけばそこまで保管の場所も取らんしな。
『なにか かわりばえしないねー』
……そう言われればそうだな。似たような品物ばかりが並んでるが……ひょっとしてあれか? 同系統のものを集めて……いや、それだと出品者側の手間が増えるだけだな。出品者のタイプで分けてんのか? 一般庶民と商家、或いはセレブとか。
『ま、時間もあるわけだし。端から端まで見ていくか』
『さんせー』
そんな感じで俺たちは、適当に売り立て品を冷やかして歩いて行った。俺も最近はそれなりに認知されてきたらしく、こうして歩いていても人がさぁっと避けていくような事は無くなっ……減ってきた。どうも冒険者ギルドで受付をしている事が広まったらしい。アルバイトとは言えギルドの職員なら、多少強面でも当然ってのか。……俺、まだバリバリの十二歳なんだが。……何か〝門番〟とか言ってるやつもいたが、知らん。
『マスター?』
『あぁ、何でもない。気にすんな』
気を取り直して出店を見ていく。相変わらず出店の規則性は判らないままだ。時々こっそり【眼力】を使って鑑定させてもらってるが、今のところ食指の動くようなものは見当たらない。ま、別に目当ての品があるわけでもなし。ブラブラと気楽に眺めてりゃいいか。
どうもこの辺りは、個人が出してる店ばかりらしい。そのせいで、並べてある品物にも纏まりが無いんだよな。家の中の不要品を持ち出して来た――って感じで。要は前世のフリマと同じようなもんだ。必要なものを安く手に入れるって意味じゃ、この辺りの店を冷やかすのは効率が悪い。どっちかってぇと、掘り出し物や拾い物狙いだな。
品揃えに纏まりがあるのは、商店が出している露天の方らしい。ちゃんとした店を構えてる商会が何で露店なんか出してるのかっていうと、住民のお祭りに参加する事でのイメージアップ狙いのようだ。ワケあり品を安く売る事で、店の評判を上げようって事だな。場所塞ぎでしかない品を安値でとは言え処分できるのなら、店としてもメリットはあるわけだ。アウトレット品とか処分品とか売れ残り品とかな。
で――そういう店はもう少し先の区画に集まってるらしい。お買い得品狙いの客はそっちを優先するんで、この辺りは少し空いてるって事らしいな。
『たべるもの ないねー』
『あぁ、そういうのはも少し先の区画らしいな。そっちへ行ってみるか?』
『うぅん こっちもなんだか おもしろそうだから いいー』
……確かにな。時間潰しの冷やかし主体になるが、お祭り気分を楽しむには、寧ろこっちの方が良いよな。
ま、そんな感じで気楽に見て歩いてたら、そいつが店晒しされてる現場に出会したってわけだ。




