幕 間 制服余話 3.制服顛末その他
~Side ネモ~
俺が学園長に提案したのは大した事じゃない。シャツを自腹切って買う代わりに、そのシャツに色物を認めてほしいって事と、放課後は私服の着用を認めて欲しいって事だけだ。
自腹でシャツを買うからには、お代を安く上げる必要がある。そうなると古着を買うしか無いんだが……平民が真っ白なシャツを着る事なんかそもそも無いんだよ。染めてもいない生成の服を着るのが普通なんだが、それでも着ているうちには汚れてくる。そういった汚れを目立たなくする方法が、より濃い色に染め直す事なんだ。まぁ、ちっと金はかかるけどな。
要するに、古着で真っ白いシャツを探すよりも、色物のシャツを探す方がまだ楽なんだよ。俺はその点を言い立てて、首尾好く要求を勝ち取ったわけだ。まぁ、式典とかで外部からの客が来る時には、白いシャツを着てくれとは言われたけどな。
白シャツの方も、スカイラー洋品店の店長が、値段を勉強してくれるって言ってくれたからな。厚意に甘える事にした。ついでに言っとくとスカイラー商会は、古着の方も扱ってる大手の衣料品店だ。俺が連れてかれた店は、その制服部門って事らしい。あの店長、商会の二代目なんだと。
シャツの話はそれくらいにして、もう一つの私服の事なんだが……言ってしまえばこれも何て事はない。魔導学園は全寮制とは言っても、放課後寮に引き取った後は、私服の着用が認められていた。だから、俺が放課後に私服を着ていても、咎められる筋合いは無い筈なんだが……放課後に敷地外で過ごすってケースを想定していなかったらしいんで、面倒が起きる前にそれを明文化してもらっただけだ。
何しろ、俺が放課後に出歩くのは、冒険者ギルドに通勤する必要があるからで、人目に付くのも当然その時って事になる。そこで〝見苦しい制服姿〟を見られるよりは、いっそ私服の着用を認めてくれって事だ。こっちも俺の主張に理があると認めてくれて、目出度く私服の着用が許可されたよ。
それと、こいつは余談なんだが……冒険者ギルド職員の制服って、魔導学園の制服と似てるんだよな。て言うか、この国のスタンダードなスタイルらしい。ゲームじゃ冒険者が出て来る事はあっても、ギルド職員の制服まで描かれなかったからな。知らんかったわ。
で――俺がギルド職員として顔が知られるようになってからは、学園の制服を着ていても、魔導学園の生徒じゃなくて冒険者ギルドの職員として認識されてるような気がする。今までは通勤時にも学園の制服を着ていたから、余計にな。まぁ、全寮制である魔導学園の生徒が、制服を着用した姿を見せる事はあまり無いから、無理のない事なのかもしれんが。
で、その冒険者ギルドの職員なんだが……学園みたいに「見せシャツ」なんかしてるやつはまずいない。――いや、前を開けてないってんじゃなくて、下に着てるのはシャツじゃなくて普通のチュニックだったり……時には何も着てなかったりするんだな、これが。C・Dクラスの平民出身者だと、そんな格好の方を見慣れてるやつも多いらしくて、妙な顔をしてるやつらも結構いたな。
あぁ、冒険者ギルドの制服の方は、別に窮屈って事はなかった。ガタイの良い連中も多いからな。いっそ冒険者ギルドの制服で通学したいと思ったぐらいだが……さすがにデザインも生地も縫製も違ってるからなぁ……無理だったわ。
あぁそうそう、制服の前が隠しボタンになってる理由なんだが……まず、ギルドの方は実利的な理由からだった。職員が制服のまま現場に出る事も多いんで、引っかかったりするのを嫌って隠しボタンにしてるらしい。
学園の方はそんな心配は無いんで、最初の頃は普通のボタンだったらしいんだが……前に女生徒の髪がボタンに引っかかって切る羽目になって、ちょっとした騒ぎが持ち上がったんだと。面倒そうな話だったんで詳しくは俺も聞かなかったんだが……お貴族様のご令嬢ともなると、髪を切るってのはちょっとした一大事らしい。
以来、そんな面倒が起きないようにと、隠しボタンになったんだそうだ。ギルドのサブマスがこっそりと教えてくれた。
こんな話、ゲームのトリビアにも載っていなかったぜ。