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第四十七章 会食マナー講習 8.コールドデザート談義

 ~Side コンラート~


 あぁ……例によってネモの失言癖か。普段は――自分のような若輩者が言うのもなんだが――歳に似合わぬ(したた)かさを示しておきながら、時々ポロリと失言をかますのはどういうわけなのだろうか。それも……()りに()ってレンフォール嬢が同席している時に。


「ネモさん……暖かい部屋で冷たいデザートというのは……どういう事ですの?」


 ……レンフォール嬢も、以前はあそこまで食べ物に執着する女性では……なかったと思うんだが……


(「彼女の追及っぷりも堂に入ってきたねぇ……」)

(「ネモ君の失言も、もう一度や二度じゃきかないから……」)


 ――そうなのだ。ジュリアン殿下とアスラン殿k……アスラン様のおっしゃるとおり、

〝いかん、口に出てたか〟――というその(つぶや)き自体が〝口に出ている〟事に気付いてない。あの失言癖はネモの弱点だな。

 そして……そういう隙を見逃さないのがレンフォール嬢という女性だ。


「暖かい部屋で冷たく冷やしたデザートを戴く……何という罪深い行為ですの……」


 咎め立てするような口調なのに瞳の奥に憧れの色が感じられるのは、私の思い違い……ではない筈だ。

 冬の()(なか)に暖かい部屋で(くつろ)ぐというだけでも贅沢(ぜいたく)な筈なのに、その上更に〝暖めた部屋の中で冷たいデザートを楽しむ〟とは……ネモのやつは一体……


「いや、勘違いするなよ? お嬢」


 はて……ネモが心外という表情で抗弁を始めたが?


「暑い夏に冷たいものを食べるってのは、こりゃ確かに贅沢(ぜいたく)だ。けどな、冬に暖房を効かせた部屋で冷たいものを食べるってのは、それと似ているようで違うからな?」

「……どう違うんですの?」

「外の気温は低いんだから、冷やしたデザートを作るのは簡単だろうが。贅沢(ぜいたく)なのは〝冬に暖かい部屋で(くつろ)ぐ〟事であって、〝冷たいデザートを食べる〟事じゃねぇからな」


 あ……言われてみれば……


「確かに……」

「そうですわね……」

「試しに〝冬に・冷たいデザートを・食べる〟って並べ直してみろ」

「……新機軸の嫌がらせとして、貴族の間で流行(はや)りそうだね」


 殿下……(ろく)でもない事を考えないで下さい……


「ネモはどうしてそんな事を思い付いたんだ?」


 ()(げん)そうな顔でエルメインが訊いているが……それも確かに気になるところだ。暖房を抜きにして考えたら〝嫌がらせ〟で、暖房を入れて考えたら〝贅沢(ぜいたく)〟。ネモの出身を考えると後者とは思いにくいが、()りとて嫌がらせをするような、()して嫌がらせを黙って受けるような(たち)でもないだろう。

 どう答えるのか興味津々で見守っていたら、


「あー……エルやリンドロームはピンとこないかもな。他の三人も……お貴族様だと解んねぇか」

「おぃネモ、それはどういう意味だ?」


 何か揶揄(やゆ)されたような気がして思わず問い詰めたんだが……ネモの答は単純明快にして、しかも意表を()いたものだった。



 ********



 ~Side ネモ~


 〝暖めた部屋で冷たいデザート〟――なんて、前世の感覚でついヴィクに念話で話していたら、()(かつ)にも声に出ちまってたらしい。お嬢が追及の構えを見せたんで、どうにか言い抜けようとしたんだが……今度は何でそんな事を思い付いたのかとエルに問い詰められる羽目になった。で、俺が(とっ)()に思い出したのが――


「ガキの頃、雪を食った憶えは無ぇか?」


 そう言ってやると、エルとアスランはポカンとしていたが、残り三人は呆気にとられたみたいだった。どうやら憶えがあるみたいだな。ちと意外だったわ。


「それは確かに……ありますけれど……」

「ネモ君は部屋の中で食べたのかい?」

「つか、弟妹(チビ)どもに雪玉を持ち帰ったらな、それを食べようとしたんだよ。そのまま食ったって美味(うま)かぁねぇだろうから、何かで味付けしてやろうと思ったのが切っ掛けだな」


 こりゃ掛け値無し、正真正銘の真実ってやつだ。

 シロップの類が無かったんで、甘味の強いワインを煮詰めてアルコールを飛ばしたものを、冷ました後でかけてやったんだが……弟妹(チビ)たちは夢中になって食べてたな。それを見た父さん母さんや祖父ちゃん祖母ちゃんたちまで、アルコールを飛ばさないものをかけて食べるもんだから、あっという間に一壜(ひとびん)空になっちまった。後で母さんに苦情を言われたけど……今考えても理不(りふ)(じん)だよな。ま、前世で「かき氷の洋酒がけ」ってやつの事を知ってたんで思い付いたんだが。


 ――それを話してやると、今度は給仕長さんが食い付いた。


「お客様、それは手前どもの方で試させて戴いても!?」


 あぁ……強めの酒を雪にかけて出せば、大人にも受けるだろうからな。けど、外の雪をそのまま出したんじゃ、客から文句が出るんじゃないか?


「それは店の方で工夫いたします。とりあえず試してみたいと存じまして」

「まぁ、そういう事なら構いませんが……」


 故郷じゃ触れ廻る事はしなかったが、それだって変に(かん)()られないように用心しただけだからな。ゼハン祖父ちゃんにも教えてはあるが、店で出すのは難しいような事を言っていた。どうせお嬢たちも家に帰ったら試してみそうな顔をしてるし、隠し続けるのは無理ってもんだろう。まぁ、一応実家とゼハン祖父ちゃんには報せておくか。



 口が滑って危ない場面も何度かあったが、どうにか斬り抜ける事ができた。俺も成長してるって事なんだろう。



・・・・・・・・



 ドルシラのお嬢を巧く()(くる)めたってんで、悪神様から【口車】のスキルを貰った。……いや、嬉しいのは嬉しいんだが……何だかなぁ……


本日21時頃、死霊術師シリーズの新作「邂逅の日」の第一話を投稿の予定です。宜しければご笑覧下さい。

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