第四十六章 歳末ガラクタ市~学園編~ 11.薬学科(その2)
~Side ネモ~
『マスター それ おいしいのー?』
――ん? ヴィクか?
『そうだな……こいつだけじゃ美味くも何ともないが、こいつがあれば美味い料理が作れるんだ。……まぁ、ヴィクの口に合うかどうかは判らんがな』
『だいじょうぶー マスターがつくってくれるのは なんでもおいしいからー』
……可愛い事を言いやがって♪
『よしよし、直ぐにとはいかんが、材料が揃い次第作ってやるからな』
『わーい♪ たのしみー♪』
――てな具合に、俺とヴィクが内心で浮かれていたところへ、
「……で、ネモ。それは食えるのか?」
身も蓋も無く無粋な口調で割り込んだのがエルのやつだった。
「……お前なぁ……二言目には食えるかどうかを訊きやがって。俺が食いもんにしか関心が無いとでも思ってんのか?」
「あら、ネモさんは【調理】スキルをお持ちですけど、【調薬】スキルはお持ちでないんですわよね? でしたらこれも調理に関わっているのではないかと、見当を付けるのは難しくございませんもの」
――相変わらず食いもんに関しちゃ鋭いな!? お嬢!
しかし……ここでこいつら食の亡者にカレーの事なんか教えたら……駄目だ、酷い事になる未来しか見えん。
幸いにして、こいつらコルタックの事を香辛料とはみていないようだから……そう言や、何で香辛料として見ないんだ? パクチーが香辛料扱いでターメリックがそうじゃないってのは、俺には納得できんのだが……あれか? 致命的な副作用とかで人死にが出たからか?
……まぁ、その事は措いとこう。今はどうやって誤魔化すかだ。
幸いにしてこいつらの中じゃ、コルタックは薬の原料扱いで、食材としては半信半疑ってとこみたいだから……
「お生憎だがな、お嬢。以前に聞いた事がある薬草にちょいと似てたから、それで気になって見てただけだ。……二日酔いに能く効くんだが、飲み過ぎたらヤバいって薬にな」
そう言って惚けようとしたところが、
「コルタックの事だよね? ネモ君はこれを知ってた?」
――割り込んだのはアスランのやつだった。……こいつもなぁ……天真爛漫な振りをして、腹の中は結構アレだからなぁ……
「あぁ。故郷にいた頃、商売人をやってる祖父さんからちょいと、な。リンドロームは知ってんのか?」
「うん。僕の故国にも時々、交易品として入って来るしね。有り触れたものではないけど、そこまで珍しい薬草ではないかな? 知り合いの商人に頼めば、手に入ると思うよ?」
そう言ってエルの方を見遣ると、エルのやつが小さく頷いてる。
……て事はあれか? 〝知り合いの商人〟ってなぁ、ゲームの本編に出てくるハラディンの事か? エルの叔父で、後にアスラン軍のロジスティクスを担当する? ……そんなのと知り合うなぁ御免だな。これ以上余計なフラグを立てて堪るかってんだ。
「まぁ、今はそこまでしてもらう必要は無ぇな。二日酔いの薬なら、上手くすりゃ冒険者たちに売れるかもしれん――って思っただけだからな」
確か加工は難しくなかった筈だからな。スキル無しでも作れなくはないだろう。
「しかし……二日酔いの薬か……」
「魔導学園の初等部で扱うには、些か微妙な素材だね」
あぁ……そういう理由もあって、ここで店晒しになってたわけか。
・・・・・・・・
その後は特に言うほどの事は無かったな。
大講堂でやってた一般備品のバザーを覗いて、弟妹たちの学習用に教科書や参考書のお古と、あとは石板と蝋石を買ったくらいだ。今は木の板に木炭で書いてるしな。
そんなもんをどうするんだと訊かれたから、故郷にいる弟妹たちの学習用だと言ってやったら、なぜかアスランとジュリアンに羨ましがられた。……考えてみりゃこいつらも、上の兄弟には迷惑をかけられてる口だったな。ま、俺から何か言うのも変なんで、黙っといたけどな。
・これにて本章終幕。次回から新章に移ります。
・本日21時頃、拙作「ぼくたちのマヨヒガ」を(久し振りに)更新します。宜しければこちらもご笑覧下さい。




