第四十六章 歳末ガラクタ市~学園編~ 10.薬学科(その1)
~Side ネモ~
めぼしいところは見て廻ったんで、あとはちょいと薬学科に顔を出して引き上げる事にした。あ、学務が講堂で売ってるっていう〝一般的な備品〟とやらも、その後で一応見ておくか。何か面白いもんが置いてあるかもしれんしな。
そんな調子で薬学科に顔を出したんだが……まさか、あんなもんが置いてあったとはな……
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「ネモさんは調薬の心得がおありですの?」
「いや。実家にいた頃弟妹どもに、薬草を煎じてやった事ぐらいだな」
前世の経験のせいか【調理】スキルは持ってるが、【調薬】のスキルは生えてこなかったんだよな。まぁ、薬草を煎じたって言っても、使った事のある薬草は片手で足りる程度だからな。こんなんで【調薬】スキルが生えるようじゃ、寧ろ不安になってくるわ。
「じゃあ、ネモは何をしに薬学科へ行くんだ?」
不思議そうな顔で訊いてきたのはエルのやつだが……そうか、俺が蛇の素材を薬師ギルドに卸してるって意味が、今一理解できてねぇみたいだな。……まぁ、俺も創立祭で教えられて驚いたくらいだ。蛇素材の卸売りが学園の授業にまで影響するなんて、普通は考えが及ばんよなぁ……
「蛇の素材を調薬ギルドに卸してる関係で、マーディン先生とは能く話すからな。それを別にしても、エルだって調薬の補習授業を受けてるだろうが」
「まぁ……確かにな。要は挨拶か?」
「ま、そんなところだ。俺は薬の素材を売る側であって、買う事はあまり無いからな」
薬そのものを買う事は、割と多いんだけどな。素材の方は、【調薬】スキルを持ってない俺には無用の長物だし。
「まぁ、【収納】持ちだから保管はできるんだが」
「あぁ……ネモ君はそれがあったよね」
「使用期限が迫っていても、ネモ君なら問題無いわけか」
実際、郊外キャンプの前にマーディン先生に入れ知恵されたしな。あれ以来、ポーションなんかは期限間近のやつを安く譲ってもらってるんだが……意外と喜ばれるんだよな、これ。苦労して作ったポーションなのに、期限切れで廃棄するのは忍びないから――って言われて。……まぁ、俺は助かるからいいんだが。
薬草とかもマーディン先生に頼まれて、一部を預かってるしな。……あぁ、これは冒険者ギルドを通して、指名依頼って事にしてくれてる。俺はそこまで気にしなかったんだが、筋は筋として通すべきだって、マーディン先生に言われたんだよな。……サブマスは、薬師ギルドが俺との繋がりを強化するように動いたんだろうって言ってたけど。
そんな感じで薬学科に行って、マーディン先生たちに挨拶した後、ブラブラと処分品のコーナーに足を向けたんだが……
(……マジかよ……いや、確かに薬にもなるって前世でも言われてたが……)
俺の度肝を抜いてくれたのは、処分品コーナーに無造作に置かれていたとある素材だった。ちょいと匂いが気になったんで、こっそり【眼力】で鑑定したら――
《コルタック:異世界チキュウのターメリック(ウコン)に相当する。肥大した濃黄色の根茎を水洗して皮を剥き、数時間煮た後に二週間ほど天日で乾燥させてから細かく砕いたものを、薬の素材や染料として使用する。
俗に肝機能を増進すると言われ、二日酔いに効果があるとされている。その他、消化不良や高脂血症への効果に加え、抗炎症作用、カッセイサンソによるDNA損傷の防止、ガンの予防、脳におけるβアミロイドの蓄積抑制によるアルツハイマー病の予防などにも効果がある。
ただし、過剰摂取が時に致死的な副作用をもたらす事や、強い臭いが忌避される事などから、現在はあまり利用されなくなっている》
――となっていた。まさかのターメリックだよ。俺が直ぐにカレーの事を連想したのも当然だよな。
カレーに使われるスパイスは色々とあるんだが、最低限必要なものは――って訊かれたら、まずはターメリック(ウコン)とクミン、あとはレッドチリペッパー(唐辛子)に、あればコリアンダー(パクチー)ってところらしい。
このうちクミンとコリアンダーは――名前はちょいと違ってたが――ハーブとして割と普通に流通してたし、トウガラシっぽいのも見つける事ができていた。ターメリックだけが見付からなかったんだが……生薬ってなぁ盲点だったわ。故郷じゃほとんど立ち寄る機会が無かったしなぁ……




