第四十六章 歳末ガラクタ市~学園編~ 6.魔道具科(その2)
~Side アスラン~
「お嬢、煮凝りっていうのを聞いた事があるか? ゼリーとかゼリー寄せとか言った方が通じ易いかもしれんが」
「……ゼリーですの? ……えぇ、お肉やお魚のゼリー寄せですとか、果物の汁を固めたものをデザートに戴く事はありますわね。……もしかして……?」
「あぁ。実はゼリーは、カメの甲羅からも採れるんだ」
……そうなんだ……
これでも魔術師の端くれだから、素材の利用法は勉強していたつもりだけど……まだまだネモ君には及ばないな。……いや……彼が食材に関して異様に詳しいとも言えるんだけど……
「……この甲羅もそうですの?」
「残念だがお嬢、こいつは使えない。……いや、ゼラチンは含まれてるんだがな」
ネモ君の説明によると、この甲羅には防腐剤が使われているため、食用には適さないという事だった。……あぁ、それで顰めっ面をしてたのか……
「防腐剤……そうでしたの」
「あぁ、食材じゃなくて防具とかの素材として考えてたんなら、寧ろ当然の処置だろうな。念のためヴィクにも確かめてもらったんだが、やっぱり食用には使えんみたいだ」
「そうでしたの……」
レンフォール嬢も残念そうだな。一気に力を落としたように……いや……そこまで落胆しなくても……まぁ、気持ちは解るけど……
少し微妙な雰囲気になりかけたけど、それを無頓着に破ったのがエルだった。
「……ネモ、ゼリーって何だ?」
あぁ、エルは知らないか。乾燥地ではあまり食べる機会が無いよね。
「ゼリーってのは……何てぇか……口で説明するのは難しいんだが……」
あぁ……確かにゼリーを言葉で説明しようとしたら難しいよね。
「……こぅ……動物の皮や骨なんかを煮込んだ汁を冷ますとできる、半透明のプルプルした塊でな。それだけじゃ味は無ぇんだが、煮汁とか果物の汁とかを固めてやると面白い食感になるんだ。……あぁ、食用の膠っつったら解るか?」
「食用の膠!?」
……ネモ君……その説明は正しいのかもしれないけど……その説明だと、エルを納得させるのは難しいと思うよ? ……具体的に想像もしづらいし。
「……そんなもんを食ってどうするんだ? 味も無いんだろう?」
「それ自体の味が無いって事は、好きな味付けにできるって事だからな。スープやジュースを固めて食べる……ってったら解るか?」
「なるほど……?」
「まぁな、正直、あまり食ったって感じはしねぇんだが、栄養としては中々だしな。皮膚や髪の状態を良くしたり、骨を丈夫にしたり……」
「何ですって……?」
あぁ……レンフォール嬢が食い付いた。……ネモ君はどうして、あぁも失言が多いんだろう。まるで、狙ってやってるかのように思えるんだけど……
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~Side ネモ~
エルにゼリーの事を訊かれたんで、できる範囲で解り易く説明していたら、なぜだかお嬢が食い付いてきた。……まさかと思うがお嬢、骨粗鬆症とかの気でもあるんじゃねぇだろうな。
「ネモさん……髪とお肌に良いって……どういう事ですの……?」
――そっちかよ!?
……シクった。
お嬢は食い意地だけだと思ってたが……美容にも関心があるのかよ……
いや……美容食ってのが琴線に触れたのか?
……そう言や茸狩りの時にも、この手の話題に食い付いてたっけな。忘れてたわ。俺とした事が抜かったもんだ。
……こういう時のお嬢相手に下手な誤魔化しは通用せんだろうし……当たり障りの無い範囲で答えておくか? ……とは言え、俺も詳しい事は知らんのだよな。精々がネットで拾った知識ぐらいで。
「……悪いがお嬢、俺が知ってるのは風聞程度だ。それでいいんなら答えてやれるが?」
「えぇ、お願いしますわ」
「え~と……動物の皮なんかから採れるゼリーの成分は、体内では皮膚や髪の毛を作るのに使われている……らしい。他にも、骨に強靱さを与えたり、骨と筋肉を接着する部分に使われたりしてるそうだ。……って言うか、ゼリーはそういう部分から採れるって事なんだが」
「あぁ……そういう事ですの。……それで……実際のところはどうなんですの?」
「食べた場合の効能って事か? ……さぁなぁ……俺も詳しくは知らんが……肌に張りと艶が出たとか、髪が太くなったとかいう話がちらほらあるそうだが……」
「まぁ、お肌の張r……「ネモ、髪が太くなったというのはどういう事だ!?」」
お嬢の話に途中から――切羽詰まった様子で――乱入したのは、意外な事にコンラートのやつだった。こいつ……まさか……
「おい……マヴェル……」
「い、いや、違う。私ではない。祖父と……父親が少し……アレではあるんだが……」
アレなのか……
「あ~……お嬢、マヴェル、俺に言えるのは、そんな話を耳にしたって事だけだ。それが事実かどうかまでは知らん。……ただな、ゼラチンだろうがサメの軟骨だろうが、そればかり食って歪な食生活を送ってると、必ずどっかへ悪影響が出るぞ? 誰とは言わんが、そんな話があっただろうが?」
そう釘を刺してやると、二人は一瞬目を逸らしたが、
「……それはともかく……ネモさん、〝サメの軟骨〟――って、何ですの?」
……いかん……余計な事を口走っちまったか?
「……サメの軟骨にも似たような効能がある――って話を聞いた事がある。ただ、本当に話に聞いただけで、料理法は知らん。寧ろ、料理長さんとかの方が詳しいんじゃねぇか?」
コンドロイチンとかヒアルロン酸とか、前世で話題になってんのを聞いただけだしな。試した事も無いから判らんわ。




