第四十六章 歳末ガラクタ市~学園編~ 5.魔道具科(その1)
~Side ネモ~
端切れが売り切れちゃ拙いってんで、まず最初に魔道具科から攻めてったんだが……おぉ……大人気だな、端切れ。前世のバーゲンセールみたいに生徒が集ってるわ。特に女子。
あそこへ吶喊してくのは気が進まないと思ってたんだが、それは後にいるセレブどもも同じだったらしく、
「……ネモ……あの中に割り込むつもりか?」
「僕とエルは遠慮しておこうかな。参加するつもりは元から無かったし」
「そうですわね……皆様のお邪魔をしてはいけませんもの」
「私と殿下も遠慮させてもらうが……ネモが行くと言うんなら、骨は拾ってやるぞ?」
おぃコンラート、縁起でもねぇ事を言うんじゃねぇ。だれがあの中にカチ込みなんかかますかよ。
「だがネモ、ここでこうして指を銜えていると……後には何も残らんのじゃないか?」
……まぁな。エルの言うのも尤もなんだが……あれはなぁ……
前世のバーゲンセールでも、オバさんたちに弾き出された上に、邪魔物扱いで睨まれたし……
『マスター あっちはー? ひとがいないみたいだよー?』
……うん?
ヴィクの指し示した方に目を遣ると……確かにいないな……?
「いないって言うより、やって来る生徒が少ないって言うべきかな?」
「……ですね。時々フラリと来ては、ざっと見回して去って行くようです」
「何が置いてあるんだ?」
諺にも〝百聞は一見に如かず〟――って云うし、実際に確かめた方が早いだろう。……って事で見に来たわけだが……
「……妙なもんばかり並んでるな。端切れとは言えんような代物まで混ざってるが?」
揃って首を捻っていたら、思い当たる節があったらしいコンラートのやつが説明してくれた。それによると……
「試作品の余り?」
「あぁ。魔導学園は新規素材の開発なども手がけているため、依頼を受けて試作してはみたが、ものにならなかった素材というのが毎年のように出るわけだ」
「おぃ待てマヴェル、そういうのはもっと上の……高等部とかの仕事じゃねぇのか?」
「必ずしもそうとばかりは言えないな。この手の依頼は毎年山のようにあるし、初級の冒険者や未成年でも使えるかどうかの検証は、初等部に下りてくる事も珍しくない筈だ」
「……なるほど」
その手の残骸が置いてあるってんなら、この閑古鳥も納得できるってもんだ。初等部の生徒にゃ手に余る素材だろうし、使いどころも無いだろうしな。
「正真正銘のガラクタってわけだな」
「……どっちかと言うと、僕らのような道楽貴族が、物珍しさに買っていくかもしれないね」
……ジュリアンの言うとおり、確かにそっちの需要の方がまだありそうだな。
「何かお気に召したもんでもあったか? フォース」
「いやぁ……皮とか骨の全体が揃ってるのならまだしも……こうバラバラになっているとねぇ……飾りとかにも向かないし……あぁ……例年の闇鍋の素材って、こういうところでも入手してるのかも……」
ジュリアンが言うのには、ここでの売れ残りが一旦高等部に集められて、そこで物好きな貴族のところへ流れるんじゃないかって事だった。思い当たる節があるみたいだな。
まぁ確かに、ここにあるのは試作用の素材を取った残骸ばかりだ。闇鍋の材料にするぐらいしか使いどころは無い……うん? あれは……?
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~Side アスラン~
黙り込んだネモ君の視線の先を見てみると、カメの甲羅のようなものがあった。正確にはその残骸だけど。
……あの様子では、残った部分から何かを作るのは難しいだろう。それくらいは僕だって一目瞭然に判る。にも拘わらず、あれがネモ君の興味を引いたという事は……
「ネモ、それは食えるのか?」
……エルは単刀直入だなぁ。
「……おぃエル、俺が食う事ばかり考えてるみてぇに言うんじゃねぇよ」
「そういうつもりで言ったんじゃないが……で、どうなんだ? 食えるのか?」
「おぃ……重ねて言うが、何で俺が食う事を考えてるなんて思うんだ? こりゃカメの甲羅だぞ? 甲羅」
「あら。これは素材としては使えないと、或る意味で学園が太鼓判を押したものでしょう? なのにネモさんが興味を示すとなると、それは食材としてしかありませんもの」
……あぁ、レンフォール嬢まで参戦したか。……まぁ、僕も同じような事を考えていたんだけど。ジュリアン殿下やマヴェル君も同じだろうな。然り気無くネモ君の方に近寄ってる。
あぁ……ネモ君が溜め息を吐いて……諦めたように話し出した。




