第四十六章 歳末ガラクタ市~学園編~ 4.出店学科案内(その2)
~Side ネモ~
魔道具科はさっき聞いたから省くとして……お嬢によれば、次に人気なのが薬学科らしい。使用期限が迫ってきた薬や薬草、素材などを安値で売ってくれるんだそうだ。大丈夫なのかって気もするが、本当に期限が切迫してるやつは売らずに廃棄するんだと。まぁ、それくらいの用心はするか。
調剤技術を上げるには、何を措いても練習あるのみって事で、薬学科所属や学科志望の生徒が買ってくらしい。……あぁ、作ったものを売りに出すんじゃなくて、練習それ自体が目的なのかよ。そういう事なら納得できるわな。
尤も、俺は調剤系のスキルは持ってないし、薬草とか買っても持て余すだけだ。ここはパスだな。ま、時間があったら挨拶程度に顔ぐらいは出すか。
「薬学科の他には何があるんだ?」
「そうですわね……ネモさんのお気に召しそうなのは……技工科ですかしら」
「技工?」
「技工」って科目は――あれだ、前世風に言えば機械工学とでも言うのか。
こっちの世界の文明は魔法ありきで成り立ってるが、それでも絡繰り仕掛けみたいなものが無いわけじゃない。魔力を使わずにできる事は、魔力を使わずにやろうって風潮はあるわけだ。
そんな時のために、簡単な機械仕掛けについての授業もあるんだが……ま、一年生でそこまで詳しい内容をやるわけもなくて、簡単な日曜大工と座学が半々ってとこだな。二年生になると、簡単な彫刻や彫塑の実技もあるらしいが。
ちなみに、創立祭ではピタゴラス○ッチみたいなものを展示してたんだが、客が張り付いて動かなかった。特にガキんちょ。
「その技工科が何を放出するってんだ?」
壊れた機械人形なんか売ってても、俺の手にゃ余るんだが。……いや……ピタゴ○装置なら、弟妹たちの土産に打って付けかもしれん。組み立てキットとか売ってんのか?
「お生憎様ですけど違いますわ。古くなった工具類のようですわね」
「工具……って……上級生が先取りしてるって言わなかったか?」
そう訊き返してみたら、今回処分されるのは初心者用の木工工具とかが主で、あまり需要が無いらしい。まぁノコギリとかトンカチとか、欲しがる学生は多くないかもしれんな。一家に一つありゃ充分だし。
けど……俺としちゃあ、これは確保の一手だろう。こういうのはいつ必要になるか判らんし、要り用になった時に直ぐ手に入るかどうかも判らん。【収納】に放り込んどきゃ場所も取らんし。
「主立ったところはそんなものですかしら」
そんなもんか。……ん? 冶金科は出してねぇのか?
「あぁ、出してはいますけど……ネモさんの期待とは違うんじゃありませんかしら。……使わずに古くなった道具とかを鋳潰す前に、念のために回覧しているそうですわ。毎年」
「そりゃ……あんまり期待できそうにねぇな」
博物学科とかは何か出していそうな気がしたが……
「あそこは滅多に出品しないそうですわよ?」
「そうなのか?」
少し意外に思っていると、ジュリアンとコンラートが補足してきた。
「その話は僕も聞いた。標本を手放すような事は滅多に無くて、溜め込む一方という話だね」
「溜め込んだアレコレで教室が圧迫されて、生徒や学務から苦情が出て初めて、渋々と取捨選択にかかるそうだ。三年前に幾らか処分したらしいから、次の参加はずっと先だろうという話だな」
……蒐集家の見本みたいな連中だな。
それ以外にもバザーに参加している学科は幾つかあるが、大抵は古くなった教科書や参考書を出している程度らしい。学生たちの需要はそこそこにあるみたいだが、俺の希望とは違うんじゃないかってのがお嬢の意見だった。……確かに、あまり食指は動かんな。
魔法関係の参考書とかは、弟妹たち用に買っておいてもいいんだが……後に付き纏ってる連中の目があるからな。弟妹たちに魔法の才がある……なんて、今の段階で気付かれたら面倒な気がするし。……ま、弟妹たちにしたって教科書をただ渡されるより、俺から実地に指導を受ける方がいいだろう。
ちなみに厨房は参加しないのかと訊いたら、あそこの調理器具は業務用の馬鹿でかいサイズばかりで、生徒の手には余るんだそうだ。食器なんかを買い替える時も、古いやつが大量に出るわけだし。なので処分する時も、市中の同業者相手に入札する事が多いらしい。……「フクロウの巣穴亭」の女将さんも、そんな事を言ってたっけな。
「……んじゃまぁ、魔道具科から見て廻るとするか」




