第四十六章 歳末ガラクタ市~学園編~ 1.耳寄りな話
~Side ネモ~
その話を聞かせてくれたのは、俺の事を苦学生だと思ってる「フクロウの巣穴亭」の女将さんだった。いや、正真正銘、苦学生の筈なんだが……そう主張するとクラスのやつらが鼻で笑うんだよな。解せぬ。
「へぇ……ガラクタ市ですか……」
「あぁ。暮れも押し詰まってくると、あっちでもこっちでも大掃除ってやつを始めるからね。その時出てきた不要品をそのまま捨てるのもアレだからって、捨て値で売ったりするわけさ」
「ははぁ……」
「ま、自分で売るのが面倒臭いって連中は、教会とかに寄進って形で押し付けてるけどね。こん時ゃ当然実入りは無いさね」
「ほほぉ……」
前世でやってたフリマとかガレージセールみたいなもんか? まぁともかく、日用品が安く手に入る機会だってんなら聞き捨てにゃできんな。
『マスター おかいものー?』
『あぁ、確かにそうなんだが……今回は食い物は売ってないと思うぞ』
『ふーん でも マスターがたのしいなら いいやー』
可愛い事を言ってくれる。よーし、今日の晩飯は凝ったものにしような。
『わーい♪』
ヴィクの言葉に癒される俺だが、聞くべき事は聞いておかんとな。
「いつ頃なんですか?」
「あぁ、そりゃ、学園が休みに入ってからだね。元々学園の行事だったって話だし」
「……はぃ?」
「おや、ネモ坊は知らなかったかい? 元々は学園で大掃除の時に出た不要品とかを、学生相手に払い下げたのが始まりっていうよ?」
……マジかよ。だったら、それって今でも……?
「あぁ、今でも大掃除の後にやってるって話だよ」
・・・・・・・・
部屋へ戻ってから、入学時に貰った学園のパンフレットを引っ張り出して確かめてみると、女将さんの言うとおりだった。隅っこに小さく書いてあるだけなんで気付かなかったわ。ゲームでも出て来なかったイベントだし。
……ん? ……待てよ?
「……てぇ事は……これって、安全なイベントだって事に……なるのか?」
厄介な展開から切り離されたイベントって事なら大歓迎だが……いや、あまりゲームの展開に縛られた思考は危険かもしれん。
確かにこの世界はゲームの「運命の騎士たちプレリュード」に似ちゃあいるが、ここがゲームの世界だ……なんて言うよりも、もっと筋の通る説明がある。つまり――〝地球でゲームを作った者がこの世界からの転生者か何かで、ここでの歴史とか記憶を基にゲームを作った〟――っていう説明だ。〝神様がゲームに似せて世界を作った〟――なんてのよりも、ずっと合理的な説明だ。これ、前にも言ったっけな。
ただ……これだと問題になってくるのが、〝ゲーム製作者がこっちでの出来事をどれだけ忠実になぞってるか〟という点だ。ゲームの展開にそぐわないという理由でカットされたとか、或いはそもそも製作者が知らない事件とかがあったかもしれんからな。
『マスター むずかしいこと かんがえてるー?』
『……そうだな。何も難しく考える事は無いんだ。単純にガラクタ市を楽しめばいいんだよな。……ありがとな、ヴィク』
『えへへー♪』
――本当にヴィクには助けられるな。
・・・・・・・・
翌日、この件でクラスの連中を問い詰めたところ、
「あ~……そう言えばあったな、そんな催し」
「あまり関係無いから忘れてたよね」
「関係無い……?」
どういう意味かと突っ込んでみたら、
「や、だってさぁ……これって〝学園の〟不要品なわけよ。あまり面白そうなもの、無いんだよな」
「要するに教材のお古だもんね」
そういう事かよ……
「けど、調薬道具の中古品なんかはどうなんだ? 将来薬師を狙ってる生徒だっているんじゃねぇのか?」
「まぁ、そういうのはあるけどさぁ……」
……何だ? 何かあんのか?
「ネモさんには言いにくいんですけど、そういうものはCクラスとDクラスの生徒が優先なのですわ。私たちAクラスやBクラスは、暗黙の了解というやつで、参加を禁じられていますの」
「……俺はどうなるんだ? 一応このクラスに在籍しちゃあいるが、由緒正しき庶民だぞ?」
「多分、ネモさんは参加しても問題無いと思いますわ。本来ならクラスメイトとして助言すべきだったのでしょうけど……そういった次第で私たちも、綺麗に忘れていましたの。ごめんあそばせ」
……そういうわけかよ。……お調子者のエリックのやつがおくびにも出さなかったから、おかしいとは思っていたが……




