第四十五章 シャル・ウィ・ダンス? 3.それぞれの結末
~Side ネモ~
「ネモはいつになく温和しかったよな」
危険人物のシャロン・ハーシェルに一時間も付き合わされて、ぐったりしている俺に気楽に話しかけてきたのは、KY男子のエリックのやつだ。こいつ、特別授業の態度と成績が今期の成績に加味されると知って、真剣そのもので取り組んでやがったからな。腐っても貴族だけあって、結構様になってたのがムカつくが。
「おいカルベイン、〝いつになく〟――ってなぁどういう意味だ? その言い方だと、俺がしょっちゅう暴れてるように聞こえるじゃねぇか」
「い、いや……そういうつもりじゃなくて……」
「さすがにネモさんも、ハーシェル先輩の事はご存じでらしたようですわね」
――ん? 確かに知っちゃあいるが……ちょっと気になる口ぶりだな。
「どういう意味だ? お嬢」
俺の問いに答えてお嬢が話してくれたのは、
「今の自治会長は優秀な方なのですけど、それを裏で支えているのがハーシェル先輩なのですわ。会議などでも現実的で、かつ巧妙な提案をされると好評でしてよ?」
おぉ……本編じゃ色んな意味で優秀なキャラだったが……あの歳でもうそんな評判を取ってんのかよ……。ゲームじゃそこまでの話は出てこなかったぞ。
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~Side シャロン~
期待どおり面白そうな少年だったわね。
下馬評よりは温和しかったけど、萎縮していたわけじゃなさそうだし。どちらかと言うと、こっちの事を警戒していたみたいな感じだった。
スライムがあれだけ懐いてるのも初めて見たし。
それに、ネモ君だけじゃなくて……
「今年の一年生は粒ぞろい……退屈はしなくてすみそうね……」
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~Side ネモ~
「……そういうわけで、俺はこんな苦行を長く続けるのは真っ平だ。集中してさっさと憶えるぞ」
「俺もそれには同意するが……具体的にどうするつもりだ?」
俺が話を持ちかけたのはエルだ。ゲームじゃ全員が最低限のダンスステップを憶えるのがクリアーの条件だった。今の時点でその最低ラインを形成してるのは、俺とエルの二人の筈だ。逆に言えば、この補習がどれだけ続くかは、俺とエルの腕次第、奮闘次第って事になる。
「要人確保の訓練だと思えばいいんだ。ダンスの場で要人を確保し、不自然でない動きで守る。そういう設定だと思えば、少しは訓練に身も入るだろう」
「おぉ……なるほど、それならいけそうだな」
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こういうわけで、俺とエルは要人確保の訓練のつもりで、ダンスの補習を乗り切った。
「何か殺伐としたものを感じましたが……まぁ、騎士の動きに似ていると言えなくもないので、良しとしましょう」
――という微妙な評価を戴いたけどな。




