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眼力無双~目つきで苦労する異世界転生。平穏なモブ生活への道は遠く~  作者: 唖鳴蝉
第一部 一年生一学期~裏腹な新生活の始まり~
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幕  間 制服余話 1.制服とハンガー

 ~Side ネモ~


 放課後に下宿に戻った俺は、(ようや)く身体に合うようになった学園の制服をハンガーに掛けた。少し濃いめのベージュを基調として、袖口と(えり)だけ焦げ茶色。(えり)は折り返しの付いた詰め襟タイプ。ステンカラーとかエドワーディアンカラーとかいうやつに近いのか。

 入学の時に学務から受け取ったんだが……思えばこの制服にも、色々と苦労をさせられたもんだ。


 最初のトラブルは入学式の二日前、学務で制服を受け取って袖を通してみたんだが……何かの手違いがあったのか、胸と肩の周りが少し窮屈だったんだよな。シャツの方はそんなでもなかったんだが、制服の方は動きに支障が出るくらいにきつかった。

 仕方がないんで袖は通さず、マントのように羽織っていたんだが……早々に職員の人から注意された。サイズが合わなくてきついんで、()む無くこうしているんだと説明すると、職員さんは青くなって学務へ駆け込んだ。

 折悪しくもこの日は闇の日、前世日本風に言えば土曜日だった。で、入学式は週明け早々の木の日、こちらも前世日本風に言えば月曜日。学園の職員さんたちは休日返上で入学式の準備に奔走してるが、俺の制服のトラブルをどうこうできるまでの余裕は無い。

 単に上級生用の制服を廻してもらえればいいんじゃないかと思っていたら、何でも年度毎に制服の色が変わるため、上級生やOBの制服は使えないんだと。


 ――で、結論を言ってしまえば、入学式は無理にでも制服を着るようにお願いされた。式が済み次第に学園(がくえん)()用達(ようたし)の洋品店――アパレル関連の店な――に駆け込んで、その場でサイズの調整をする事になった。


 週明け、(物理的に)窮屈な思いをして入学式を済ませ、その足でスカイラー洋品店ってところに連れて行かれた。まぁ、事情の説明を済ませた後は、仕事が立て込んでるからってさっさと戻っちまったけどな、職員さん。


 ともあれ、大急ぎで間に合わせないと色々と(まず)いらしいんで、あちこちの寸法を測られたわけだ。その後で店長らしい人――俺の目付きにも動じなかった好い人だ――が(のたま)うには、


〝一言で云えば体格が良過ぎるんですね。と言うか、騎士学園の生徒さんでも、ここまで立派な体格は中々いませんよ〟

〝まぁ、村でも大人用の古着を着てましたから……〟

〝初等部の制服に、大人用はありませんからねぇ……〟


 故郷の村で着てたのは、大抵プルオーバータイプのチュニックだったんだよな。前世で言えばTシャツみたいなもんだから、大きめのやつを着てればサイズはまぁ何とかなったんだ。こういうスーツっぽいものは勿論、ボタン留めのシャツだって滅多に着なかったからな。

 あ――ちなみにこれは俺に限った事情じゃなくて、平民なら大体がそんなもんだ。後になって聞いたんだが、C・Dクラスの新入生には、制服やシャツの着方が判らずに戸惑ってたやつも多かったらしい。特に平民出身者な。それでなくてもこの制服は、前が隠しボタンになってて面倒なんだ。

 なのに、俺は――前世の経験で――何の問題も無く着ていたんで、あいつは何者だって感じに目立ってたんだと。ちっとも気付かなかったわ。


 ――ま、そういう細かい事は()いといて、店長さんがおっしゃるには、


〝まあ、こういう事は初めてじゃありませんし、今回は問題ありませんよ〟


 これまでにも標準体型から外れた生徒が入学して来た事はあったらしい。俺みたいに無駄にガタイの良い者の他に、チビや痩せっぽち、肥満体なんかがいたせいで、サイズ調整も手慣れたものなんだと。


 俺としちゃあ心強いお言葉を貰ったが……しかし、そこまでガタイが良過ぎるのか、俺の身体。

 ……だとしたら、(いっ)(ちょう)()の制服が着崩れないように、少し工夫ってやつが必要になるな……


〝ハンガー? ネモ君のサイズに合わせたものをですか?〟

〝えぇ。自腹でお支払いできる値段なら――ですが〟

〝それはまぁ……ハンガーを(あつら)えるくらいなら、そこまでの手間はありませんが。……理由を聞いても?〟


 (いぶか)しげな表情の店長さんに、俺は理由を説明した。俺のサイズが規格から外れているとなると、普通のハンガーでは制服に(しわ)ができる可能性がある事なんかをな。店長さんは興味深げに聴いていたが、


〝……そういう事なら、これはネモ君に限っての話に終わらせずに、他のお客様にもお薦めした方が良いかもしれませんね。当店の差別化を図る事にも役立ちそうですし〟


 どうやらハンガーを客の体型に合わせて(あつら)えるという発想はこれまで無かったらしく、店長さんが静かに興奮していた。店の営業方針として採用していいかと訊かれたんで、問題は無いと答えておいた。て言うか、既にどっかの店がやってるもんだと思ってたぜ。

 俺みたいな平民の()(せがれ)に丁寧なもんだと思ってたが、俺は一応魔導学園の生徒なもんで、気を遣ってくれたって事らしい。



・・・・・・・・



 後になって俺のところに、木工ギルドから礼状が届いた。何の事かと思って開いたら、スカイラー洋品店が始めたオーダーメイドハンガーの件で、木工職人の仕事が増えたかららしい。


 王都のギルドともなるとさすがに丁寧なもんだと、俺は心底感心した。

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― 新着の感想 ―
[一言] お?主人公はサラッと流してるけど「裏で」大騒ぎになったのかな?w
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