第四十二章 新メニュー評定 3.相談(その2)
~Side バネッサ~
駄目元でネモって子に相談してみたんだが……いやぁ、大当たりだったね。
調理実習の時から素人じゃないとは思ってたけど、こっちの予想以上に話が解ってた。……このまま厨房に就職してくれないもんかね。
手始めにパンケーキとやらの使用許可を貰えないかと交渉してみたんだけど……あっさりと承知してくれたよ。自分も誰だったかに聞いただけで、自分で工夫したわけじゃないって言ってたけど……それでも何だかんだとゴネるやつも多いってのにねぇ……
で、パンケーキを焼くのに鉄板を使うって話から、鉄板で肉を焼く時の話になったんだけど……
「へぇ……? 薄くスライスした肉を焼くってのかい?」
「えぇ。薄く切ったり細切れにしたりすると、硬い肉も食べ易くなりますし、場合によっては端切れみたいな肉でもいいわけですから」
倹約料理の技法じゃないか――って、ネモは言うんだけどね。
「そもそも料理用の鉄板なんて、あたしら庶民は持ってないからね」
「あ……そういう事ですか……」
宿屋とか食堂ならありかもしれないけど……
「肉が薄い分、火の通りが速いんですよ。目を離してると焦げたりするもんで」
「そりゃ……忙しい食堂なんかにゃ向かないかもねぇ……」
ま、学園の厨房ならそれなりに人数もいるし、纏めて作っといて保温しとけば済むわけだから、ある意味打って付けかもね。
ただ、ネモって子が教えてくれたのはそれだけじゃなくて、
「へぇ? 肉に下味を付けてから焼くのかい?」
肉の鉄板焼きっていうのは、そこそこの厚さに切った肉を鉄板の上で焼いて、味は後から塩とかソースで調える――ってのが定番だったからねぇ……焼く前に下味を付けるって発想は無かったよ。
焼き方にも色々とあるみたいだけど……今回は、既にある鉄板で一気に大量に調理する方法を教えてくれた。浅い鉄鍋で調理する方法もあるらしいけど、そっちは火加減とかの調整が少し面倒らしい。鍋も用意しなくちゃいけないしね。
細切れの肉を料理する方法として、微塵に叩いた肉に塩を加えて粘りを出した後で、卵なんかを混ぜて纏める方法もあるって教えてくれたけど……卵を使う段階で少し材料費が高く付くし、纏めるのに少し手間がかかるって言うしね。
やるんなら予め纏める段階まで終わらせておいて、その時点で凍らせるかどうかして保存しといて、調理の前に解凍する――って……能くそんな事を思い付くもんだ。そこまでの作業を外注する手もあるそうだけど……そんな体制を整えるなんて、幾ら王立学園でも、一介の厨房の仕事じゃないさね。
あと、安くあげるのに内臓を使う手もあるそうだけど……臭みを抜くための下拵えが大変なんだってさ。それに……
「モツみたいに安い肉を学園が買い占めたら、困る人たちもいるんじゃないですか?」
――って言われちゃあね。……そもそも、あたしん家が真っ先に困りそうな気がするし。
それはそれとして、少し気になる事もあるんだよね……
「ははぁ……見てくれですか。……確かに、少し貧乏臭く見えるかもしれませんね」
この学園、お貴族様も多く通ってるからね。いや――お貴族様の出でも、子供たちはあまり気にしないのよ。ただね、子供じゃなくて親とか親類とかがね……
「しみったれた料理を食わせるのは怪しからん――とか言い出すんですか?」
「ちゃんとしたものを出しほしいんなら、それ相応の授業料を寄越せっ――て言いたいんだけどね」
「そういう面倒を回避するために、この学園は王立になってるんじゃないですか? 学園の方針に異論を唱えるのは、ある意味で王家に対する批判と同じでしょうに」
「そんな道理が判らないやつらが文句を言うのさ」
学園側としても、正面切って貴族に喧嘩を売るなんて面倒は御免だからね。何とか丸く収める手立ては無いかと訊ねたんだけど……
「要は貧乏臭く見えなければいいんですよね? もしくは、納得せざるを得ない理由があれば?」
そりゃ……まぁ、そうだけど……そんなに都合の好い料理なんてあるのかね?




