第四十二章 新メニュー評定 2.相談(その1)
~Side ネモ~
厨房のおばちゃん――バネッサさんというらしい――から声をかけられた時には何かと思ったが、要は来年度からの新メニューについての相談だった。食堂のメニューは毎年更新……と言うか、追加されてるそうで、メニューを考えるのに頭が痛いんだとか。新年度からの公開に先立って、一月から三月までの期間、試験的に公開して反応を見るんだそうだ。そこで評判の好かったものだけが採用となるため、試案の段階ではより多くのメニューを用意しておく必要があるんだと。
いや……厨房の人たちも大変だな。事情を知ったからには、俺としてもできるだけの助力はしたいんだが……
「クリアーすべき条件は、値段・手間・万人向けで飽きの来ない味付け――ってとこですか」
「そうさね……。まぁ、値段に関してはそこまで気を遣う必要は無いと思うけど」
「でも、一日分の費用を安くできたら、別の一日に少し高いものを出せるじゃないですか」
「あぁ……毎回の食費を平均化する事を考えなきゃ、そういう手もありかもしれないねぇ……」
うん。一人二人の客に出すんじゃなく、学園の生徒・教職員全員に提供するんだからな。費用や労力といったコスト面は無視できん。エスカルゴみたいに、下拵えだけで一週間以上の時間がかかるようなものは論外だな。……そういう観点からすると、食材の保管にスペースをとるようなものも望ましくないか。
「あぁ……そういう問題もあるんだねぇ。……いや、坊やに相談したのは正解だったよ。中々そこまで気が付かないからね」
バネッサさんの言葉に、他の職員さんたちもウンウンと頷いてる。こんな俺でも役に立ったというなら、気分が良いな。
「で、ものは相談なんだけどね、こないだ坊やが作ってた、パンケーキってのがあったろう? あれを使わせてもらえないかと思ってね」
……マジかよ。一々俺なんかの許可を取ろうってのか? 律儀な人たちだよな。
え~と……パンケーキについちゃゼハン祖父ちゃんからは何も言われてない……って言うか、作って見せた事自体が無かったか? 実家では何度か作ってたんだが。
まぁ、大丈夫だろ。祖父ちゃんが何か言ってきても、お世話になってる厨房職員さんたちとの円滑な交友関係の構築だ――とか何とか言ってやれば、ゼハン祖父ちゃんなら納得するだろう。
「俺は構いませんけど……ちまちま焼いてたら手間じゃありませんか?」
「何、でかい鉄板で一気に焼くからね。そこまで手間はかからないさ。……あぁ……でも、坊やが――」
「ネモです」
「……ネモが平鍋でやってたように、濡れ布巾で温度を下げるのはできないか。……ま、その辺りはこっちが腕を上げて対応するさ」
おぉ……男前な事を言い出したな。……まぁ、ここの調理施設は高性能みたいだし、職員さんたちも腕自慢が揃ってるだろうしな。
ふむ……鉄板があるんなら、お好み焼きって手もあるが……お好み焼きはソースあってこその料理だからなぁ……。ソース無しで納得させられるかどうかは怪しいし、逆にソースが無い事から料理の不完全性を、延いてはソースの不在を疑われるかもしれん。教えない方が無難か。
……待てよ。……鉄板を特注する必要はあるが、タコ焼きなら却って何とかなるんじゃないのか? アレもお好み焼きと似たようなもんだが、一口のサイズが小さい分、具の味付けで誤魔化せるかもしれん。前世の日本でも、タコの代わりにチーズやウィンナーを入れて焼く事もあったしな。
……問題は……俺がそんな事を知っているのが不自然だって事だが……旅人から聞いたといって誤魔化せるか?
いや、待て待て……何も焦って結論付ける必要は無いんだ。他に鉄板を使う料理と言えば……
「バネッサさん、その鉄板は何に使っているんですか?」
「ん? 鉄板かい? そりゃ、肉を焼く時さ」
その答えを聞いて、俺はてっきり焼き肉だと思ってたんだが……話を聞くとステーキだった。……どうせ俺は前世現世を通じて庶民だよ。分厚いステーキなんざ思い付けるかってんだ。
だが待て……そうすると、「焼き肉」って料理法は知られてないのか?




