第四十二章 新メニュー評定 1.幕開け
~Side 厨房職員バネッサ~
はぁ……毎年この時期は憂鬱になるね。
〝人心の掌握はまず舌と胃袋から〟――なんて、誰が言い出したか知らないけどさ。
いや、当を得ているとは思うんだよ? あたしも。
だけどね……だからって毎年食堂のメニューの刷新を図るってのは……厨房担当者の事も、ちったぁ考えてほしいのよ。毎年々々そう簡単に、新しいメニューなんてできるわけが無いでしょうが。
――新年度からメニューを切り替える、或いは新たな料理を追加する。それに先立つ新年の一月~三月に、在校生に試験的に提供して、子供たちの反応を見てメニューを決める。
いや、良い方針だとは思うのよ? あたしも。
……お鉢がこっちに廻って来さえしなけりゃね。
町の料理人仲間に相談してもタネ切れだって言うし、行商人に話を聞いてネタにするのもそろそろ手詰まりだし……どうしたもんかね。
生徒たちの意見を聴いても、厨房の事情なんか斟酌せずに、勝手な事をほざくばかりだからねぇ……どうしたもんか……
……おや? あの子は確か……そうだ、調理実習の時に色々な工夫を見せてくれた子だよ。頭にスライムなんか乗っけてるから間違い無い。
調理室に連れ込んでいいのかって聞かれたけど、スライムはあれで清潔な動物だからね。汚れだろうが何だろうが、漏れ無く吸収しちまうってんだから。
……そう言やあの子、【料理】スキル持ちだって言ってたっけ。ソーダを色々と上手く使って料理してたね。思い出したよ。
ちょいと見てくれはアレだけど、終始食材と調理に対して真摯な態度で臨んでたからね。それができる子におかしなやつはいないさ。
……そうか……あの子が作って見せた……確か、「パンケーキ」とか言ってたね。あれを使わせてもらう手があった。ソーダを使った肉の軟化も使えそうだし……こりゃあ、是が非でもあの子に話を持って行くしかないね。
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~No-Side~
「おぃっ! 大変だ!!」
その朝、血相を変えてAクラスに駆け込んだエリックの急報から、この話の幕が開いた。
「またエリックの大変か?」
「こないだのアーウィン先生縁談話は、結局ガセネタだったじゃないか?」
何人かの生徒が揶揄うような口ぶりで茶化すが、当のエリックにはそれを捌くような余裕は無いようで……
「……どうした?」
「今度は何を訊き込んできたのよ?」
さすがに様子がおかしいと勘付いた何人かの生徒がエリックを問い詰める。その答えは、
「……ネモが……食堂の新メニュー検討メンバーに……選ばれた……」
クラスメイトたちがエリックの発言内容を咀嚼して理解するのに数秒を要し、その後……
「「「「「――――っ!?」」」」」
その日、品行方正を以て鳴るAクラスは、阿鼻叫喚の巷と化した。




