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第四十一章 魔女の闇鍋 4.サバトの終わり?

 ~Side ネモ~


 「運命の騎士たちナイツ・オブ・フェイツプレリュード」の設定によると、エディス・ニコラテスは魔導学園の二年生だ。母親が――寿命の問題で――貴族籍を離れたハーフエルフ、父親がドワーフというぶっ飛んだ生まれで、怪しげな実験や発明を繰り返しては、しょっちゅう爆発事故を引き起こしている……という設定だった。

 母親の実家の貴族家との間には別段確執は無く、クォーターエルフであるエディスは寿命の点でも人間と大差無いため、母親の実家の貴族籍に戻るという話も出ていたんだが……学園での(ぎょう)(じょう)が判明した事で、この話は立ち消えになった筈だ。ちなみに母方の祖母は、エルフであるが故に寿命が人間よりずっと長いため、それによってややこしい事態が起きるのを避けるべく、配偶者である貴族家当主が亡くなった時点でエルフの里へと帰っている。

 ゲームの展開を攪乱するトリックスターなので、初心者はエディスに関わるなって、攻略板に書いてあったとか。それでも突発的に現れてはゲームを引っ掻き廻すというんで、前世の妹がブツクサ文句を垂れてたもんだ。


 ……そんな彼女(エディス)が、こっちの世界にも実在してるのかよ……桑原々々。


「万一何か不測の事態が起こっても、【障壁】の魔術で対応できる。ここに待機している先生方は、その手のベテランばかりだからな」

「……〝その手の〟っていうのがどういう意味なのか、伺ってもいいですか?」

「あぁ、【障壁】の魔術は、ネモたちも二年で習う筈だ。錬金術師には必須の魔法だからな」

「ちょっと先生、〝その手〟の意味……いや……〝錬金術師に必須〟?」

「不測の事態に対応する技術も無しで、錬金術の実験はさせられん」


 ……錬金術と爆発は表裏一体――とか言い出しそうだな、この先生。〝その手〟の意味は()して知るべしってか?


 ――そんな問答をしていると、いつしかクラスが静まり返っているのに気が付いた。……静まり返って俺の方を見てやがる。……何だってんだ。


「いや……ネモが何か用意してるんじゃないかと思って……」

「おぃカルベイン、俺は素材の提供不可って言い出したのはお前だろうが」

「そうだけど……いざとなったら好奇心が……。怖いもの見たさっていうか……」


 エリックの二枚舌に呆れていたら、後ろに控えている連中までウンウンと(うなず)いてやがる。クラスの総意ってやつなのかよ。


「まぁ……一応用意してきたもんはあるが……」


 クラスの連中が(ざわ)めいたが……そんな大したもんじゃねぇよ。バイコーンベアの脳味噌を塩漬けにしたもんだ。

 魔獣の脳味噌が家族に不評だったんで、塩漬けを試みて失敗したやつだ。いや、毒化したとかいうんじゃなくて、単に不味いってだけなんだが。ヴィクからも駄目出しを喰らったやつだから、廃棄処分のつもりで一応持って来ただけだ。

 本当はこのほかにもう一品、インビジブルマンティスに寄生してたハリガネムシも用意してたんだが……怖い笑顔の先生方に巻き上げられちまったよ。生物学のダンウィード先生なんか、えらい鼻息だったし……


「……てか……蛇肉の燻製を持って来たやつがいなかったな? 何人かは持って来ると思ってたんだが?」


 なんせ、キャンプの時にはあの騒ぎだったからな。これ幸いと持ち込むやつがいるだろうと読んでたんだが……


「おぃおぃネモ、他のクラスはいざ知らず、このクラスにそんな馬鹿がいるわけないだろう」

「味はともかく、効能は保証付きだっていうんだから」

「いや、ちゃんと味も好かったぞ?」

「そぅそぅ、酒が欲しくなる味だった」

「……俺は(おや)()に巻き上げられたよ……疲労回復の食材なんか、子供が食べるものじゃないって……」

「あたしもお父様に差し上げたけど……随分と喜んでらしたわ。疲れが取れた気がするって」

「ネモ、あの燻製とかはもう無いのか?」


 おぃおぃ……随分と評価が変わったじゃないか? 少し驚いていたら、事情通のコンラートのやつが解説してくれた。……どうも、こないだジュリアンに渡した大水蛇(ヘイラーダ)の件――効果があったそうだ――が漏れたらしい。それに加えてマムシスキップジャックヴァイパーの薬膳料理も評判になったらしく、地味に蛇肉の評価が上がりつつあるんだと。……冒険者ギルドで訊いてみるか。

 ま、それはともかく、


「んじゃカルベイン、お望みの実験ってやつを始めるか」

「おう!」


 で、エリックのやつは意気揚々と鍋に素材をぶち込んで、掻き混ぜ始めたんだが……


《先生、【障壁】の魔術は臭いには効果が無いんですか?》

「無いわけではないが……本来は衝撃に対する防御のために開発された魔術だからね。ゆっくり広がる悪臭や有毒気体には、風魔法での防御の方が効果的なんだよ」

《なるほど……で、目下先生方はそうやって身を守ってらっしゃると。……生徒たちを(いけ)(にえ)にして?》

「人聞きの悪い事を言わないでくれたまえ。あそこで昏倒しているのは、いきなり臭いを嗅いだ馬鹿者だけだ。用心深い生徒は、ちゃんと距離を取っているだろう。……ネモは別方向に用意をしていたようだがね」

《爆発とかだと俺にはどうにもできませんけど、少しの悪臭ぐらいならこれで防げますからね》


 ……結論から言うとエリックの調合は、尋常でない悪臭を生み出した。短時間だけ僅かに嗅いだ限りでは、ドリアンにクサヤとシュールストレミングと洗ってない靴下の臭いを足したような感じだな。それを感じ取った瞬間に、俺は予め用意していたガスマスクを装着した。無論、ヴィクにもだ。話し声がくぐもっているのは、ガスマスク越しに発声しているせいだ。


 素人が材料を()(たら)()に混ぜた結果生じるものとして、最悪なのは爆発だろうが、次点でヤバいのは有毒ガスだろう。毒成分や悪臭成分は【毒破壊】のオプションで対処できるとしても、それを大っぴらにするわけにはいかない。なので次善の策として、俺はガスマスクの製作に踏み切っていた。

 本格的な防毒マスクは無理としても、活性炭を詰めたフィルターを用意して、更に浄化の魔法を付与した手拭いを組み合わせたものを用意した。活性炭は、以前にゼハン祖父ちゃんに話をした結果、祖父ちゃんの商会で消臭剤として売り出したものだ。また、手拭いの方はアグネスを経由して、教会から有償で手に入れた。

 気休め程度にしか期待していなかったが、思ったよりも効果があったようだ。


 さて……先生方は他の生徒を悪臭から護るための風魔法に忙しいようだし、気絶している馬鹿(エリック)たちを引き摺り出すのは俺の役目か。

 薬品の臭いを(じか)に嗅いだりしないようにって、授業でも散々注意されてた筈なのに……それをすっかり忘れてやらかした馬鹿には、後でしっかり教育的指導(げんこつ)をくれてやらんとな。

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