第四十一章 魔女の闇鍋 2.サバトの準備?
~Side ネモ~
『マスター てごろなのって ないねー』
『そうだな……』
下宿に帰って【収納】の中身を確認してみたんだが……結構ゴミみたいなものが溜まっていた。ただ、益体も無い実験に費やしていいものとなると……
『なかなかないねー』
『そうなんだよなぁ……』
役に立ちそうにないものなんか、最初から回収しないからなぁ……
食材の余りなんかも、ヴィクが綺麗に食べてくれるし……
……まぁ、俺は用意する必要は無いと言われたんだが。
〝――と言うか、ネモに任せると何が出て来るか判らんからな〟
〝おぃマヴェル、そりゃどういう意味なんだ?〟
〝まぁまぁネモ君、ここは見栄っ張りの貴族や王族の出番だから〟
〝そうですわね。さっき実家の方に確認してみたら、毎年恒例の行事のようでしたわ。兄たちに言わせると、どれだけ危険でなく、かつそれなりのものを持たせるかで、各貴族家が競っているそうですわよ〟
貴族の沽券に関わるってやつらしい。けど、そんな事より気になったのは、
〝お嬢……「さっき実家に確認した」――って……どうやったってんだ?〟
〝別に不思議な事ではありませんわ。通話用の魔道具を持たされていますもの〟
〝……そんなもんを持ってんなら、キャンプの時にも実家に連絡が取れた筈だよな?〟
〝こういうものは、使うべき時に使ってこそですもの。連絡が無いという事も、それなりの意味を持つメッセージなんですわよ?〟
まったく……貴族ってやつらは凄いよな……
そんな工夫を凝らした素材なんか、用意するのに時間がかかるんじゃないかと思っていたら……
〝毎年の事らしくて、既に用意してあるそうですわ〟
〝多分だけど……王家でも何か用意してるんじゃないかな〟
〝あぁ、リンドローム卿とエルメイン君はお気になさらず。お国に連絡するのも手間でしょうから〟
あの二人は身分を隠した亡命者だからな。表向きの説明としては無難だろうと思ってたんだが、エルのやつは軽視されたみたいで不満だったらしく、
〝ネズミの屍体ならまだあるぞ?〟
――なんて事を言い出しやがった。エリックのKYが感染したんじゃあるまいな?
〝エル……それは……〟
〝おぃエル、ちゃんと食えるものを、こんなお遊びに投げ出すな〟
勿体無いお化けが出るんだぞ――と言ってやったら、エルのやつも納得してたな。
ま、材料は一応ジュリアンが用意するって事で収まった。こういう事は考え無しのジュリアンにやらせるのが適材適所だろうしな。
……そんな事を思い返していると、
『マスター これはー?』
五割増バイコーンベアの骨格かよ……これ、出したら絶対面倒な事になるな……
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~Side ジュリアン~
ネモ君にはああ大見得を切ったけど、本当に大丈夫なんだろうかと心配していたら、
「あぁ、錬金術の馬鹿騒ぎか」
王太子であるアルマンド兄上は、納得したような表情だった。
「心配するな、ジュリアン。『錬金術基礎』での馬鹿騒ぎは、もはや非公式なカリキュラム扱いだからな。王家でも抜かり無く準備してある」
値段が高くなくて、なおかつ始末に困るようなものは、王家だけでなくどこの貴族家でも押さえてあるとの事だった。これは錬金術師や魔術師でも同じなようで、何かの素材が突然必要になった時に備えているらしい。
「まぁそれでも、入手しにくい素材というのはあるんだが……お前の友人のネモ君だったか? それこそ彼に頼めば……拙いかな……」
「彼の場合は、しれっと何を出してくるか予想できないんですよ。……冬虫夏草は事前に阻止できましたけど……」
ネモ君は、まるで価値に気付いていないようだったからなぁ……あの調子でとんでもないものを出されたら……
「ローランドの馬鹿は、ディオニクスの焦げた部分でいいんじゃないかなんて言い出してくれたが……それは父上共々却下した」
「アレはそもそも、無かった事になってる筈ですからねぇ……」
「それを考えると、ネモ君を除外したのは慧眼だったな。発案者はマヴェルか?」
「と言うか……クラス全員の総意ですね……」
――そう言うと、兄上は何か気遣ってくれたようで、
「……キャンプでの件は聞いている。……大変だったようだな……」
「いえ……兄上の方は大丈夫でした? その……」
「あぁ……大水蛇は確かに額面どおりの効果だった。……アッチの方だけでなく、滋養強壮全般にね。それに……出された時にはちゃんとした料理の体裁だったから……」
「……僕らはその前の段階を見せられましたからねぇ……」
……頭を刎ねられた蛇体がビチビチとのたうち回っている情景は、今でも時々夢に出て来る。……出て来るみんなは笑っていて、なぜか魘される事は無いんだけど……これはこれで何かを失ったような気がする……