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眼力無双~目つきで苦労する異世界転生。平穏なモブ生活への道は遠く~  作者: 唖鳴蝉
第一部 一年生一学期~裏腹な新生活の始まり~
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第五章 知られざる「生活魔法」 4.魔法実技 急の幕

 ~Side ライサンダー学園長~


 カサヴェテス教授が言いたい事は解っておる。その件について説明しておく必要があるじゃろう。


「解っておる。あのディオニクスの件じゃな?」

「はい。そもそもディオニクスなど、学園の周りには棲息していない筈です。それがなぜ訓練場を襲うような事になったのか……」

「報告を受けて()ぐに、特務騎士団の出動を要請した。あの個体以外にディオニクスは見つからなんだそうじゃが……代わりに面倒なものが見つかった」

「……と、おっしゃいますと?」


 ……もしやと思うて探させたんじゃが……悪い予感が当たったわい。


「ディオニクスをここまで運んで来て、飼育しておった者がいたようじゃ。既に()手人(しゅにん)どもは跡白波(あとしらなみ)と姿を消しておったがな。(おり)(おぼ)しきものの残骸が残されておった。……与えていたらしき餌と一緒にな」

「……一体、何の目的で……」

「目的までは判らん。ただ、ある程度大きく育ててから王都に放すなり何なりすれば、民に甚大な被害を出した上で、王家の威信を揺るがす事になったであろう。(きた)るべき五月祭などは、恰好(かっこう)の舞台であったろうな」

「何と……そのような大それた真似を……」

「ま、失敗したようじゃがな。その点で言えば、ネモ君の功績は大きいわけじゃ。とは言えネモ君がおらなんでも、カサヴェテス先生が片付けてくれたであろう事は疑っておらんよ?」

「いえ……それは……しかしそうすると、この件でネモは……?」

「うむ。ジュリアン殿下やアスラン殿下に危難が及ぶのを防いだわけじゃからな。王家より報酬を賜る事になった。ディオニクスの買い取り額とは別にの」

「……は? ……買い取り?」


 おや? カサヴェテス教授は知らなんだか?


「聞いておらなんだか? ネモ君からは――控えめにじゃが――ディオニクスの素材の所有権について確認された。事情が事情ゆえ、所有権を主張できるのかどうか判らぬからと言うての」

「所有権……?」

「ネモ君は冒険者ギルドに見習いとして登録しておるそうじゃ。ギルドからは、自分が(たお)した獲物の所有権は必ず主張するようにと言われたそうでな。下手に遠慮して前例など作ると、(かえ)って他の冒険者に迷惑がかかるから――とな」

「……待って下さい。冒険者登録は十三歳からだったのでは? ネモはまだ……十二歳の筈ですが?」

「じゃから、『見習い』なのじゃよ。古い制度での、ギルド員としての権利や資格を制限する代わりに、十歳から登録ができるそうじゃ」


 ま、知らんのも無理はない。(かつ)て冒険者であった(わし)じゃとて、説明を受けるまでそんな制度の事など知らなんだからな。


「……それで、ディオニクスの屍体はどうなると?」

「王家としては、反逆の証左ともなろうものを、バラされて素材などにされても困る。とは言え、まだ反逆者の存在が確定したわけでもないのに、年度初めから補正予算を組む事はできんし、そんな事をすれば人目を引く。機密費を使うにしても、取引自体は秘密にするような性質のものでもない。

「一方学園としては、学園敷地内で生徒が確保した素材が他所(よそ)へ流れるのを、座して眺めておるわけにもいかん。何よりもじゃ、カサヴェテス先生の話が事実なら、あの素材に残されておる魔力の痕跡は、学園にとっても貴重な資料となる筈じゃ。

「そこで王家と相談した上で、学園が対価を支払う形で、ネモ君から買い取る事にした。一応証拠品としての側面もあるので、(みだ)りに解体するのは(まか)()らんと釘を刺されたが……。ま、最終的には王家に引き渡す事になろうて」

「……有償での買い取りですか……」

「理不尽に寮を追い出した上に、獲物まで分捕るような真似はできん。退学するなどと言い出された日には事じゃろうが」

「それはまぁ……確かに」

「冒険者ギルドのギルドマスターには、(わし)の方から言い含めておいた。差し支えない範囲で事情を説明しての。ディオニクスがこんな場所に出たなどと布告されてしもうては、色々面倒な事になるでのぅ」

「……ネモは結構な収入を得る事になりますな」

「彼は苦学生だそうじゃからな。悪い事ではあるまいよ」



 ********



 ~Side ネモ~


 野外練習場でちょっとしたアクシデントが起きた次の日、朝のホームルームでアーウィン先生が、アクシデントの件については黙っているようにと注意していた。今更そんな事を言っても遅いだろう。俺だってギルドマスターに相談したし。

 あの恐竜の屍体、俺が所有権を主張していいもんなのかどうか判らなかったんだよな。一応授業時間中だったわけだし。以前にギルマスからは、原則として自分が(たお)した獲物の所有権はきっちりと主張するようにと言われていた。変に遠慮して所有権放棄なんかすると、それが前例となって他の冒険者にまで迷惑がかかるんだそうだ。

 なるほど、そう言う事もあるのかと思ったから、後になって事情聴取を受けた際に控えめに質問しておいた。学園長からは前向きに検討するとのお言葉を貰った。


 恐竜の件については公式には無かった事にしろとアーウィン先生から釘を刺されていながら、KYな男子生徒が生物の時間に恐竜について質問していた。先生は困った様子だったけど、一般的な知識として説明してくれた。飽くまで一般的な知識として。

 俺が見た限りじゃ、あれは前世でディノニクスとかヴェロキラプトルとか呼ばれていた種類に近いと思う。映画で見た。敏捷な動きで獲物に肉薄し、鋭い足の爪で獲物を引き裂く捕食者だ。距離があったから安全に仕留める事ができたが、あんなのと森の中で突然出くわしたら(たま)ったもんじゃない。気配察知とか、そういう方面のスキルが切実に欲しい。……【願力(がんりき)】に(すが)るべきだろうか。

 とりあえずは先生方の言うとおり、森には立ち入らないようにしよう。ギルマスもそう指示を出すような事を言ってたし。


 あ、質問した馬鹿は、その後生徒指導室に呼び出されていた。当然だな。


 ……あの恐竜、単に迷い込んで来ただけの野良恐竜と思ってたんだが……違うんだろうか?



・・・・・・・・



 あの恐竜の屍体は学園側が買い取る事になった。冒険者ギルドへの説明は学園長がやってくれるそうだ。俺には権利関係の交渉なんかできないし、面倒を引き受けてくれたのはありがたい。


 それよりも……場所と時期と状況が違っていたから今まで気付かなかったんだが……これってひょっとして、王都魔獣戦のイベントか?


 あれは……確かどこぞのテロ組織だか何かがテロ用に魔獣を飼育していたのが、飼育に失敗したか何かで凶暴化して町に暴れ込むとか、そんな話だったと思う。その魔獣を飼育していた場所のスチルが、ここの風景と似てるんだけど……。ほとんどフレーバーテキストみたいな感じだったから、()く憶えていないんだが……


 あれ? 俺、イベントを潰した? ……どうなるんだ? これ。

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