序 章 2.目覚めの時
……という経緯を思い出したのが、俺が十歳の時。この世界で「祝福の儀」と呼ばれる、教会での鑑定儀式の直前だった。
これは、各人が持つ能力とかを鑑定水晶と呼ばれる水晶玉で読み取って、進路を決める際の指針として教示するものだ。
この世界では、十三歳にもなれば何らかの職に就くのが当たり前。成人として認められるのは十五歳からだが、正式な契約を結んでの就労は十三歳から可能になっている。なので俺の育った村でも、十三歳になると働きに出る者が多かった。ちなみに冒険者ギルドでも十三歳から登録可能だが、十五歳までは未成年の扱いとされて、危険な依頼は受注できなくなっているらしい。
まぁそんな事は措いといて、ここで注意してほしいのは、鑑定水晶で判った結果は飽くまで職業選択の指針でしかないという事だ。簡単に言えば、魔術師の適性のある者が木樵の道に進むのを、禁じる法律は無いという事だ。……才能の無駄遣いとしてジト眼で見られる事はあるそうだが、それでも木樵としての結果さえ出せれば、そこまで煩くは言われないらしい。
た・だ・し……これには例外がある。
ユニークスキルを持つ者は、往々にして社会に与える影響が大き過ぎるという事で、有無を言わさず王立学園への入学が決められてしまうらしい。その後は大体国か有力貴族に囲い込まれて、表向きは不自由の無い、その実は自由の無い生涯を送らされるのだという。
……ここまで話した内容から察して戴けると思うが、俺にはユニークスキルがある。
そう、俺の魂に刻み込まれたとかいう、例のガン付けスキルの事だ。
前世と転生時の記憶を取り戻した俺が、ラノベの定番に従って自分のステータスを表示させた結果がこちらでございます。
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名前:ネモ
種族:人間(転生者)
性別:男
年齢:十
魔 力:87 [<10][魔術師50]
生命力:80 [50] [兵士70]
筋力値:14 [15]
防御値:31 [10]
敏捷値:27 [8]
器用値:28 [7]
知力値:43 [5][魔術師15]
スキル:【生活魔法】【不動心】【状態異常耐性】【収納】【調理】
固有スキル:【眼力】【願力】
称号:『天界の恐怖』『闘神を威圧せし者』
加護:『最高神の加護』『闘神の加護』
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ステータスはゲームとかで能く見かける変数で表してあったが、問題はその数値だった。右側の[ ]で括ったのが成人(十五歳以上)の平均値だと言えば、その異常さがお解り戴けようか。ちなみに魔力・生命力・知力については、魔術師や兵士の平均値も併記してある。
……そうだよ! 筋力値こそ成人の平均よりやや低いけど、その他は余裕で平均をぶっちぎってるよ! ……この世界で危険な目に遭わないようにとの神様の配慮なんだろうが……その配慮のお蔭で面倒な目に遭いそうになってるよ!
ユニークスキルもしっかり二つも表示されてるし……更に称号! 何だよ!?『天界の恐怖』って! 『闘神を威圧せし者』って! 主効果は何と威圧の強化だよ!! しかも加護まで貰っちゃってるよ! 隠しようが無ぇじゃねぇか!! あと神様、ルビでコメントしない! 本文に先んじて件名で用件を伝えてるメールみたいじゃないか!
……いかん、落ち着こう。折角貰った【不動心】スキルが無駄になる。息を吸って……吐いて……よし、落ち着いた。
――まず、このステータス値はおかしい。
平均値がどうこう言う以前に、今の今まで俺は自分の力が大人並みだと感じた事は無い。敏捷値や魔力にしても同様だ。【生活魔法】は確かに持っていたが、その出力が他人より優れていると感じた事は……一度も無い。
そう考えると、このステータスは「祝福の儀」、もしくは俺が記憶を取り戻したのをきっかけとして、改変だか解放だかされた可能性がある。さっきこっそり試してみたら、【生活魔法】の【着火】、火花が前より大きくなってたしな。
【収納】は「インベントリー」とか「アイテムボックス」とか呼ばれる事もある、ラノベでは定番のスキルだ。……こんなスキル持ってたなんて、俺は今の今まで知らなかったよ。知っていれば色々と使えたのに……
【調理】については、前世の記憶を取り戻す前から、漠然とだが食材の利用法が浮かぶ事があり、それに従ってちょくちょく作っていたからだろう。下手物呼ばわりされる食材でも、調理法によっては結構美味いものになるんだよな。
……まぁ、ここまできたら焦っても仕方がない。ユニークスキルか称号がどうにかしてくれるんじゃないかと、それだけを期待して鑑定に臨むとしよう。
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――結果、何とかなりました。
鑑定水晶を前にして、どうかバレませんようにと一念に一心に必死に懸命に渾身で精魂傾けて念じていたら、水晶玉が少し震えたかと思うと、下のような鑑定結果を出してくれた。
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名前:ネモ
種族:人間
性別:男
年齢:十
魔 力: 7
生命力:30
筋力値:13
防御値: 9
敏捷値: 7
器用値: 6
知力値: 5
スキル:【生活魔法】【調理】
固有スキル:無し
称号:無し
加護:無し
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うん、十歳児の平均より少し高い程度の数値でした。【眼力】のせいか【願力】のお蔭か、水晶玉が俺の事情を忖度してくれたようだ。ありがたい。神様はハードモードだなんて言ってたけど、ここは無機物ですら転生者に優しい世界だった。
……偽装なんて無理をしてくれたせいか、水晶玉はその後しばらく不調になったそうだが……一刻も早く治ってほしいものだ。
ただ……数値の方は水晶玉先生が気を遣って下さったが、水晶玉に映る魔力波動の色までは誤魔化せなかったようだ。俺の波動の色はユニークスキル持ちに多い色らしく、今後ユニークスキルが発現する可能性もあるとの事で、念のために王立学園に入学する事が決まってしまった。
学園への入学は十二歳。それまではこの村で過ごし、二年後の進学に備える事になる。俺の両親は普通の村人だったから、王立学園への入学が決まった事を喜んでくれた。仮令ユニークスキルが発現しなくても、ちゃんと卒業まで面倒を見てもらえるし、卒業すれば大抵どこかに就職できるそうだからな。僅かとは言え入学までの支度金が支給されるのも、うちの家計を考えるとありがたい。俺の下に小さいのが二人いるし、こいつらの食費を賄えるんなら、えぇ、お兄ちゃんは魔窟にでも伏魔殿にでも行きますとも。
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二年後、王立魔導学園に入学した俺は、この学園が前世日本のゲームと同じである事に気が付いた。