第四十一章 魔女の闇鍋 1.サバトの予告?
~Side ネモ~
エリックの馬鹿がそれを言い出したのは、「錬金術基礎」の授業中の事だった。
(「なぁネモ……適当な材料を出鱈目に混ぜたら、一体何ができるんだろうな?」)
(「授業中にくだらねぇ事を言い出すな」)
(「いや……だって、気にならないか?」)
(「……解らなくもないが……そりゃ、混ぜる材料次第じゃねぇのか?」)
(「決まった反応とか無いのかな? 爆発するとか?」)
(「……おぃカルベイン、お前、授業中に爆発を起こしたいのか?」)
(「いや、そういうわけじゃないけど……ネモは気にならないか?」)
(「まぁ……そりゃ……少しはな」)
爆発は男の浪漫だからな。そんな事を囁き交わしていると、
「そこ! 質問があるなら手を挙げて言うように!」
授業担当のホースティン先生から注意が入った。エリックのせいだと睨もうとしたら……
「はい! 滅茶苦茶に材料を混ぜたら、何ができるんでしょうか!?」
……エリックのやつ、馬鹿丁寧に挙手して起立した挙げ句、とんでもない事を言い出しやがった……
「好奇心と探究心は買うが、授業中にそんな相談をしないように。やりたいのなら学務の方に申請して、放課後に教師立ち会いの下でやりたまえ」
「解りました!」
――おぃっ!? 教師がそんな事を言っていいのかよ!?
「長年の経験から言わせてもらうと、この手の生徒は実際にやってみて、痛い目を見なければ納得しないからな。教師としては、生徒の独創性の芽を摘むわけにもいかん」
「そりゃ……そうかもしれませんが……」
「気にする必要は無い。毎年やってる事だ」
……そうなのか……?
意外と懐が深いな、この学園。
けど先生……〝そういう事なら――〟と、クラスのやつらが続々と参加を表明してるんですけど?
「生徒の自主的な発案による実習の計画だ。予めカリキュラムには組んである」
……凄ぇな……てか、深いのは懐じゃなくって業とかじゃないだろうな?
『マスター なにかはなしが すすんでるよー?』
おっと、一応話を聞いておくか。
「……僕たちの都合で行なう実験なんだから、材料も僕らが用意するのが筋だと思う」
「一人一つっていう事か?」
「いや、多過ぎても収拾が付かなくなりそうだし、各班が最低一つという事でいいんじゃないか?」
「そうね……それくらいが無難じゃないかしら」
「ついでにいうと、教科書に載ってるようなものを持って来てもつまんないよな?」
「それはそうだな」
「各班、知恵の搾りどころだな」
おぉ……いつの間にかどんどん話が進んでやがる。……こういう時には優秀さを見せつけるな、こいつら。
「一つだけ懸念があるんだが……」
慎重派で知られた学生が、そう言って俺の方に視線を巡らせた。確かエリックと同じ班で、エリックのストッパー役を任されてるやつだな。マースとか言ってたが……おぃ……何でクラス全員が俺の方を見るんだよ……?
「まぁ……この手の実習は我々の予測の範囲だが、その予測から外れそうなのがネモだからね。……あぁ、悪い意味にとってもらっては困るんだが」
先生……その発言のどこに〝良い意味〟が含まれてるんですか?
「……言っておくが、無駄にできるような素材は持ってねぇからな」
そう言ってやると、なぜか安心したような雰囲気が広がった。……解せぬ。