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第四十章 茸狩り 14.エスカルゴ談義(その2)

 ~Side ネモ~


 魚醤のタレで付け焼きにしたり、フライパンに油を引いて塩で炒めるとかでも結構いけるんだが……セレブな方々の口に合うかどうか判らんしな。……エスカルゴの調理手順を教えておくか。ちっとばかり手間はかかるが、別に間違いってわけじゃないし、グルメ向きの調理法でもあるわけだしな、うん。


「まずは一週間くらい絶食させて、糞とかを出させる必要があるな。その後で殻と身に分けて、時間をかけて洗う必要がある。その後で下味を付ける作業に入るんだが……これがまた半日ほどはかかるからなぁ……」


 そう言ってやると、さすがのお嬢も引いていた。自宅で調理させるのは面倒だと思ったみたいだな。


「……美味しいんですの……?」

「美味いっていうかなぁ……これ自体にはほとんど味は無いんだ。味付けありきの食いもんだな。下味を付けたエスカ……カタツムリを貝殻に入れ戻して、香草を練り込んだバターを詰めてオーブンで焼くのが基本だな」


 サラダに入れるとかパンの上に載せて焼くとかもありらしいが……俺はやった事が無いからな。


「……そうまでして食べたいやつがいるのか?」

「そうまでして食いたいやつだけが食うんだろうな」

「なるほど……」


 エルのやつの疑問に詭弁じみた答えを返したところで、今度はジュリアンのやつが質問してきた。……いいかげん解放してくれねぇかな。


「ネモ君、蒸し返すようで悪いけど……食べる時に寄生虫の事は気にならなかった?」


 俺は【眼力】で鑑定して、大丈夫って判ってから料理したからなぁ……


「一応しっかり観察して、活きの良さそうなもんだけ料理したが……中間宿主を弱らせるようじゃ、寄生虫として失格だからな。カタツムリの様子から寄生の有無を判別するのは、難しいかもしれん」

「なるほど……」

「気になるんならリンドロームにでも【鑑定】してもらったらどうだ?」

「――僕!?」


 話を振ってやるとアスランのヤツは驚いていたが、


「いやいや、それは無茶だって。大体、僕はその寄生虫とかいうのも、寄生虫に冒された患者も見た事が無いんだよ。正しく鑑定できるとは思えない」


 俺が鑑定できたのは、前世での知識があったのも大きいだろうしなぁ……


「んじゃ、Bクラスのアグネスにでも押し付けるか?」

「アグネス嬢に?」


 一応は聖女なんだから、健康に悪い寄生虫を駆除するとか、寄生の有無を判別するくらいできるんじゃねぇのか? ……って……いかん、「プレリュード」ではまだ聖女って判明してないんだった。何とか誤魔化さんと――


「一応はシスターなんだから、身体に悪いものぐらい判別できるんじゃないのか? できなくても、教会なら何か情報の一つぐらい持ってそうじゃねぇか?」

「カタツムリの寄生虫って、聖職者の守備範囲なのかなぁ……」

「それを言うなら、平民出の一学生の守備範囲でもねぇよ。話の繋ぎはバルトランにでもさせろ」

「――俺に!?」


 レオのやつ、高みの見物を決め込もうとしてやがったからな。


「同じBクラスなんだから当然だろうが。嫌なら俺がBクラスに乗り込んで、直談判(じかだんぱん)してやってもいいんだぞ?」

「う……」

「まぁ、この件については、僕が父上たちに(はか)ってみるよ。そこまで急ぐ必要も無いだろうし」


 レオのやつ、明らかにほっとしてるな。


「あぁ、もう一つ。感染の危険を減らしたいというなら、綺麗に洗浄した餌を与えて、養殖するって手もあるぞ」

「養殖!?」


 ジュリアンのやつは驚いてるが……そこまでおかしな事か?


「いや……カタツムリの養殖など、私も初耳なんだがね……」

「不肖、この私もですな。……仮にも王家料理長の職にあるんですが……」


 オーレス先生と王室料理長さんがブツブツと(つぶや)き始めたが……まぁ、こんなものを養殖しようなんて、あまり考えないかもしれんなぁ。養殖それ自体の手間はあまりかからなそうに見えるんだが……それなりに技術を要するとか、ネットの記事で読んだ憶えがあるんだよなぁ……


「ネモ、カタツムリの養殖というのは難しいのか?」


 コンラートのやつが訊いてくるんだが……


「おぃマヴェル、俺だって何でもかんでも知ってるわけじゃねぇんだぞ? ……まぁ、そうだな。一見簡単そうには思えるが、そういうのに限って何か落とし穴があるもんだからな」


 隊長さん方がウンウンと(うなず)いてるんだが……身に憶えでもあるのか?


「あとは採算面だな。カタツムリは食材としての知名度が低いだろうし、受け皿となるだけの需要を確保できるかどうか……。商業的には厳しいかもな」


 そう言ってやると、コンラートのやつは考え込んだ。試験的に少数を養殖するだけなら話は別だとも言っておいたが……技術的に不明な点が多いのは変わらんからなぁ……

 お嬢は手を出すのを()めたらしい。ナイジェルのやつは悩んでいたが、とりあえず何匹か持ち帰る事にしたようだ。料理長さんも同じだな。


「ま、何匹か飼ってりゃ、そのうち卵を産むんじゃねぇか? ……繁殖期が何時(いつ)かまでは憶えてねぇが」

「待てネモ、繁殖を考えるなら、雄と雌を揃える必要があるんじゃないか?」


 おぉ……エルはさすがに遊牧民出身だな。目の付け所が違うわ。……だが、カタツムリの場合はちと違うんだ。


「カタツムリは雌雄同体だからな。単為生殖はできないから複数飼っておく必要はあるが、雄か雌かを気にする必要は無ぇよ」


 ……そう言ってやったら……雌雄同体の事は初耳だったらしく……これまでで一番の質問攻めに遭ったよ……ちくせう……


これにて本章も終幕です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まぁ雄雌同体の生物もいれば、性転換する生物も居ますからなぁ…。昆虫のなかには良い子孫を残す為に古い精子を放出する→その手段としてホモ交尾を採用(?)してる種も存在してますし……生き物の歴史…
[一言] 主人公が完全に「在野の賢者」と化している…。
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