第四十章 茸狩り 11.ネモのダイエット講座(その3)
~Side ネモ~
「……エル、その他に干した果物とかは食べないのか?」
確かナツメヤシ……デーツの実がベドウィンたちの重要な食料だって読んだ憶えがある。こっちの世界ではどうなのか、確かめておいた方が良いだろう。
「……本当に能く知ってるな……。あぁ、定住民との交易によって入手するデトの実は、俺たちの重要な食糧だ」
ほぉ……こっちじゃデトって言うのか。十中八九、デーツことナツメヤシの実だろう。甘い上にビタミンやミネラルが豊富だから、遊牧民たちにとっても重要な食材になるんだろうな。
「それで……」
「ちょっとお待ち下さいます? ……エルさん、先程お話しになった、『チャイ』というのはどんなものですの?」
ちぃ……気付きやがった。何気に勘が良いんだよな、お嬢。
「その話をしている時、ネモさんの表情が少し動いたので気になりましたの」
――俺かよ!?
「あ、あぁ……チャイというのは……何と言うか……」
お? エルは詳しく知らないのか? ひょっとして、チベットやモンゴルのような磚茶なのか? だったら、正体が判らなくても……
「あれは植物の葉を乾燥させて固めたものだと思うよ」
アスランーっ!? てめぇ、余計な事を喋ってんねぇよぉぉぉっ!
「そうなのですか?」
「エルは気が付かなかった? さっきネモ君が〝若葉を乾燥させたもの〟って言った時、ひょっとしたらと思ったんだけど……確証が無かったから黙ってたけどね」
「あら……そうでしたの……?」
……嘘だな。
大方、自国で取引を独占しようとか企んでたんだろうが……ネタがバレそうになったんで、お嬢と組んで俺を追い詰める策に出たか。……油断も隙も無ぇ……
「……ネモさん?」
「悪いがお嬢、さっきの飲み物については、本当に聞き囓りでしかないからな。エルの言う『チャイ』がそれに当たるのかどうかは、俺には判断できんぞ?」
こりゃ、正真正銘そうなんだからな。
「そうですの……エルさん?」
「あぁ?」
「エルさんのお仲間は、その『チャイ』というものをお飲みになっているのですわよね?」
「あ、あぁ……そうだが?」
「お仲間に太り過ぎの方って、おいでですか?」
――そうきたか。だがなお嬢、その質問は愚問だぞ。
「いや……そもそも、太り過ぎるほど食う事がまず無いからな」
「あ、あら……申し訳ございません」
お嬢も所詮は貴族って事だな。想像力の限界ってやつか。ま、そもそも駱駝のミルクってやつは、乳脂肪分が少ない筈だしな。少し塩っぽいという話も聞くが。
「……何ですって?」
「うん?」
「ネモさん、今、何とおっしゃいましたの?」
「……は?」
「脂肪分が少ない……とか?」
――! いかん! 口に出てたか!?
「どういう事ですかしら……?」
「い……いや、以前にちょっと小耳に挟んだだけで、確証のある話じゃ……」
「……ネ・モ・さん?」
「……キャルムの乳は、牛乳に較べて乳脂肪分が少ないと聞いた。ただ、それが事実かどうかまでは知らん」
仕方なく白状すると、お嬢は無言でエルの方に向き直った。
「……そう言えば……初めて牛の乳を飲んだ時、随分と濃いものだと思った憶えがあるな……」
「僕は逆だね。初めてキャルムの乳を飲んだ時、随分あっさりしてて驚いた記憶がある」
エルに続いてアスランの証言か。こりゃ、キャルムの乳が低脂肪だってのは確定か。
……に、しても……お嬢、さっきから何をブツブツ呟いてんだ?
(「……キャルムの乳を確保……いえ……いっそキャルムそのものを確保するには……やはり現シモン王は不適当ですわね。遊牧民との関係が上手くいってないとの事ですし……やはり退位して戴くべきですわね……」)
……俺は何も聞いてない……
「運命の騎士たち」でオルラント王国がラティメリアに宣戦布告した裏の理由がダイエット食品の入手だなんて……俺は聞いてないからな……