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眼力無双~目つきで苦労する異世界転生。平穏なモブ生活への道は遠く~  作者: 唖鳴蝉
第一部 一年生一学期~裏腹な新生活の始まり~
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第五章 知られざる「生活魔法」 3.魔法実技 破の幕

 ~Side カサヴェテス教授~


「……それで、何がどうなったのだね?」


 困惑した様子で学園長が先を促すが……ここから先の話は信じてもらえるかどうか、自分でも自信が無い。……いや、立場が逆なら信じないだろうという確信がある。


「……森の中から現れたのはディオニクスでした。まだ成体ではない若い個体のようでしたが、危険な魔獣には違いありません。幸いに距離がありましたので、近寄る前に【ウィンドカッター】で斬り裂こうとしたのですが……」

「……どうなったのだね?」

「それより先にネモが、【着火(イグニッション)】で瞬時に焼き殺しました」

「……何……?」


 学園長は、何を言っとるんだ、こいつ――という表情だが……無理もない。生活魔法の【着火(イグニッション)】は、薪などに火を着けるだけの魔法だ。魔獣を焼き殺したというならそれは火魔法、そう考えるのが健全な良識というものだ。しかし――


「先に言っておきますが、火魔法ではありません。火魔法で焼き殺す場合は、魔力によって強力な火炎を生み出して、それによって焼き殺す――これが普通です」

「……普通ではなかったと?」


 そうとも。普通ではなかった。彼は――


「彼は単に〝魔獣に火を着けた〟だけです。魔力を火に変えて放ったのではありません。……燃えたのは魔獣の身体そのものです。それも瞬時にして」


 ……我が目を疑ったとも。学園に奉職して三十余年、こんな理不尽は目にした事も耳にした事も無かったのに。


「生活魔法は本来、微弱な魔力でごく短時間に発動可能なのが特長です。その反面で強い効果を得る事は望めない。我々はそう理解していました……今までは」


 少なくとも、魔獣を丸々焼き殺すような……そんな派手なものではなかった筈だ。


「しかし、ネモの【生活魔法】――()(はや)あれを【生活魔法】と呼んでいいのかどうか判りませんが――はこの例に当てはまりません。発動の速さはそのままでしたが、消費する魔力は段違いに大きくなっていました。初級魔法のカテゴリーには収まらないほどに。……それでも、普通の火魔法でディオニクスを焼き殺すよりは、魔力の消費が小さかったように思います」


 ……効果に対して必要な魔力が著しく小さい。少なくとも〝焼く〟という事象限定では、あれは通常の火魔法より効率の点で優れているかもしれん。


「ふむ……微弱な魔力で発動する【生活魔法】など幾ら練習したところで、【魔力操作】が生えるわけが無い……そう考えておったのだが……」

「あれは別です。あれなら【魔力操作】が生えたのも納得できます」


 ネモは【着火(イグニッション)】だと主張していたが、生徒たちは納得しなかった。勿論自分も同じだ。確かに【着火(イグニッション)】の面影は残っているし、彼の言うように元々は【生活魔法】の【着火(イグニッション)】だったのかもしれんが……


「ひょっとして自分は、【生活魔法】がユニークスキルに進化する過程を目にしているのかもしれない――そう思っていたのですが……」

「……違うというのかね?」

「魔術史担当のイーガン先生に話したところ、それは(むし)ろ逆ではないかと……【生活魔法】が【生活魔法】として省魔力化される前の、()わば【生活魔法】の原型とでも言うべきものではないかとの指摘を受けまして……」

「うぅむ……」

「【生活魔法】がいつ、誰の手によって創り出されたものなのかは、未だに判っていないそうです。ただ、今のように魔力を使わない形でいきなり完成したとは思えず、既存の魔法を極限まで省魔力化して創り上げたのではないかというのが定説だとか」

「ネモ君の【生活魔法】は、その原型というわけか」

「原型そのものではないかもしれないが、魔術史の観点からは大いに関心が持てるとおっしゃっていました」

「ふむ……」


 さすがに学園長も考え込んでしまわれたか。あれが【生活魔法】の原型だとすれば、少なくとも(かつ)ては誰かが使用していたという事だから、あれがユニークスキルである可能性は低くなる。……という事は……ネモはあれ以外に更にユニークスキルを持つ事になる。カイズを昏倒させたという一件も気になるし……正直な話、ネモという少年は何者なのだ?

 ……この学園(われわれ)の手に負えるような相手なのか?


「……その魔法が【生活魔法】の【着火(イグニッション)】だとすると、他の【生活魔法】はどうなっておる?」


 そう……それが一番厄介な事だ。


「……気は進みませんでしたが……一応、確認しました。どれもこれも、消費魔力は普通の【生活魔法】より大きいものの、効果がそれを補って凄い事になっていました。例えば【浄化(クリーン)】ですが……」

「……【浄化(クリーン)】は汚れを落とすだけの、無害な魔法の筈じゃが?」

「……もはや無害とは言えなくなっていますな。汚れだけでなく罠魔法まで無効化しましたよ。恐らくは呪いや怨霊の(たぐい)にも効果があるでしょうな」

「何と……」

「続けます。【点灯(ライト)】では普通の照明の他に、瞬間的に強烈な閃光を発する事もできました。目潰しには効果があるでしょうな。特に注目すべきはその光を、一定の方向にだけ向ける事ができた事です。……ネモは集束光と呼んでいましたが……」

「集束光……」

「暗い場所の調査などには有用な魔法ですな。【施錠(ロック)】と【解錠(アンロック)】については、手元に錠前が無かったので確認しておりませんが、どうせ(ろく)なものには化けていない筈です。何でしたら賭けても(よろ)しい」


 生徒たちは唖然としていたが……無理もない。……ネモ一人だけが解っていないようだったが……


「ともかく、あのアクシデントのせいで、予定していた授業が全く進んでおりません。来週も野外訓練場の使用をお願いしたいところなのですが……?」

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