第四十章 茸狩り 4.茸狩り(その2)
~Side ネモ~
ナイジェルの出店で提供したのは、実家の近所で採集した椎茸擬き――干したやつ――から取った出汁だ。この茸は名前が付いてなかったんで、俺が漏らした「しいたけ」から、家族の間ではシーマッシュって呼ばれるようになった。前世でも椎茸の英訳がシイタケ・マッシュルームだったし、こういうのも〝歴史は繰り返す〟っていうんだろうか。……違うような気もするな。
王都でそれが採れるかどうかは怪しかったが……植生を見ると、実家で椎茸擬きを採っていた場所とは少し違う。これだと椎茸……シーマッシュは難しいかと思っていたら、シーマッシュの代わりにそいつを見つけた。
「ほぅ……こいつがあったか……」
『マスター それ おいしーのー?』
『ん? あぁ、ちょいと毒があるけどな。旨味はシーマッシュよりずっと強い』
『ふーん たべていいー?』
『あー……悪いが、ちょっと待ってくれ。一応は連中にお伺いを立てんとな』
『わかったー がまんするー』
おぉ……健気だな、ヴィクは。何、他にも食べられる茸はあるだろうから、後で茸料理を作ってやろう。
『わーい♪』
……っと、一応連中に報せるか。
・・・・・・・・
「ネモ、これが先日のスープの材料なのか?」
「……随分と派手々々しい茸ですのね」
ま、赤い傘の一面に、白い疣が散らばってんだ。目立つと言やぁ目立つわな。前世のヨーロッパじゃ、同じようなのが幸運のシンボルとされてたんだが……
「あ、いや。こいつはこないだのスープとは無関係だ。毒があるんだが――」
「「「「「毒!?」」」」」
……ちょっと落ち着けよ、お前ら。
「ほぉ、アマニットかね」
「確か、毒の強さにばらつきがあるんじゃなかったか? 死んじまったり、頭がおかしくなっちまったり」
「傘の色で毒性が違うんじゃなかったかね?」
……オーレス先生とバンクロフツ隊長は一応知ってるようだが……近縁種とごっちゃになってんじゃねぇのか? この世界の分類って、まだそのレベルなのかよ。……こりゃ、面倒な地雷を踏んじまったか?
オーレス先生が言ったように、こいつはアマニットと呼ばれている茸だ。ただ、〝アマニット〟ってのは類似種と近縁種を引っ括めてそう呼んでるもんで、ちょいと面倒な事になってる。目の前にある「ベニテングタケ」擬き以外に、「テングタケ」擬きや「イボテングタケ」擬きも同じ〝アマニット〟扱いなんだが、こいつらはまぁ毒茸という点では共通しているからいいとして、問題は毒が無くて食用の「タマゴタケ」擬きまでが、同じ〝アマニット〟扱いになってるって事なんだよな。
ベニテングタケ擬きとタマゴタケ擬きは、白い疣の有る無しくらいしかハッキリした違いが無い――この点は地球産のものと同じ――ため、タマゴタケ擬きと間違えてベニテングタケ擬きを食っちまって中毒する事例が偶にあるらしい。そのせいで、見分け方が困難みたいに思われてるようだ。
更に話がややこしい事に、このベニテングタケ擬き……地球産のそれと同じように、煮こぼした後で塩漬けにして毒抜きすれば、ちゃんと食べられるんだよな。しかも美味。故郷じゃ能く食べてたもんだ。
家族にはキッチリと見分け方を教えたんだが、俺がいない間は手を出さないと言っていた。まぁ、無難と言えば無難だな。毒茸の方を間違えて食ったら、洒落じゃ済まん事になるし。
しかし……専門家とかはちゃんと見分けてるもんだと思ってたんだが……今更惚けるのは無理か。……ちっ、仕方がねぇ……
「……アマニットには幾つかのタイプがあるんですが、こいつはその一つです。毒はありますがそれほど強くないため、煮こぼして塩漬けにすれば毒抜きできます。ついでに言っとくと、美味いです」
あぁ……案の定騒ぎ出しやがった。