第四十章 茸狩り 3.茸狩り(その1)
~Side ネモ~
何だかんだとお嬢に丸め込まれて、俺はいつもの班員どもを引き連れて、ナイジェルの茸狩りに付き合う事になった。ナイジェルのやつもいい迷惑だよな。……済し崩しにレオが蹤いて来てるのは、同門のナイジェルの事を慮ったのか、それとも貴族としての打算からか。
「その両方ってとこだな。ナイジェル独りでネモとお偉方のお相手はきついだろう」
おぃ……俺も萎縮の対象に含まれてんのかよ。心外だと抗議したんだが、
「当たり前だろう。寧ろ、お前が最大の元凶だぞ?」
「……何で俺が……」
「あのなネモ、学園内とは言え王族や大物貴族の子女に遠慮無しに対応したり、大陸七剣の一人と互角の勝負を演じたり、対暗殺者戦の指揮を執ったり……どれ一つとっても、普通の学生にできる事じゃないからな? 貴族だろうと庶民だろうと。そんなお前の相手をするのは、一般生徒には重荷なんだよ」
「……その割りには、お前は平気な顔をしてるじゃねぇか」
平気と言えばエルもそうなんだが……あいつの場合は、アスラン以外は引っ括めて有象無象の扱いだからな。
「ネモ、俺はこう見えても貴族の一員だぞ? 痩せ我慢と強がり・はったりは貴族のお家芸だ。俺も子供の頃から叩き込まれてる。そこがまぁ、ただの庶民とは違うところだな」
むぅ……俺の扱いは納得いかんが、要するに、後からしゃしゃり出てきたお嬢やジュリアンのせいで、ナイジェルが迷惑を被ってるってのは解った。
(「いや……どっちかと言うとお前が最大の元凶……」)
レオのやつが何か言ってるようだが……捨て置いていいだろう。
そうなると……要は割り込んで来た連中は放って置いて、ナイジェルからの依頼を最優先に対処すればいいわけだ。
「まぁ……対処の方針としては間違ってないな」
「よし、それじゃ一つ、気合いを入れて探してくか!」
********
~Side コンラート~
創立祭で私たちが目を離している隙に、ネモのやつがまたもやらかしてくれた。今度はDクラスの生徒が出している露店で、前代未聞の豆料理を出すなどという暴挙をしでかしてくれたのだ。下手をすれば豆の相場がひっくり返るのではないかと、商人だけでなく王国の商務部も気を尖らせているというのに、ネモときたら……Dクラスの生徒――確かナイジェルといったな。イズメイル道場の門人で、レオ・バルトランの相弟子だった筈だ――の依頼を受けて、茸狩りの計画など立ててくれた。
件の豆料理の味を一変させた調味料が茸のスープで、その材料を探しに行くのだなどと……看過できるわけが無いだろう。
幸いレンフォール嬢が機敏に動いてくれたお蔭で、私たちも同行に与る事ができたが……
「オーレス教授にはご迷惑をおかけします」
「何、構わないよ。課外とは言え博物学の実習という名目である以上、教科担当の者が同行するのは筋というものだ。しかし……」
教授はちらりと視線を巡らせたが、その先にいるのは王家の料理長だ。まさか料理長自らご出馬とは……当初はレンフォール公爵家の料理長が同行するという話だったが、それを聞いて急遽名告りを上げたそうだが……
「……王家の料理長が直々に出向いて来るような話なのかね?」
「その辺りを見極めるために、自身で出向いたそうです。下っ端では埒が明かず、然りとて他家の料理人に任せるには問題が微妙過ぎると言って」
「なるほど……」
もしもネモのスープが実用性のあるものなら、調理の手順が一変しかねない。その可能性が少しでもある以上、この情報の扱いは王家が宰領する必要がある。
私やジュリアン殿下、アスラン殿k……様が出向いているのも、言い方は悪いが、レンフォール公爵家やナイジェル君に情報を独占させないためだ。話の風向き次第では、ナイジェル君には件のレシピを買い取るように話が行く筈だ。
まぁ、我々が急遽割り込む形になったため、キャンプに同行してくれた騎士団の面々に、再度護衛をお願いする事になったが。
前回の教訓を生かしたのか、親衛騎士たちは目立たないよう私服で、特務騎士は周辺に潜伏して警戒してくれているようだ。
……おや? ネモが何か見つけたようだな。