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幕  間 【施錠】騒動

 ~No-Side~


 ()りに()って創立祭の、それも初日から厄介な問題を報告された王立魔導学園学園長ライサンダーは、机の上でその白髪頭を抱え込んでいた。

 報告してきたのは学園の警備主任の一人マークス・バイロン。例の(・・)郊外キャンプにも同行し、異端児ネモの力量を()く知る一人である。

 そしてそれだけに、この報告――記録が後に残る事を懸念したのか、口頭のみの報告であった――の持つ意味は小さくない。


 ――あのネモがまたしても無自覚にやらかしてくれたのだ。



「……確かなのか?」

「本人に確かめる事はできていません。しかし(いず)れの案件でも、〝頭にスライムを乗せた、長身で目付きの悪い若い男〟を見かけたという証言が得られています」

「うむ……」

一部の(・・・)部下たちに、それとなく訊き込みをさせています。現時点で彼の存在と掏摸(すり)の捕獲を関連付けた者はいないようですが……」



 バイロンの言う〝一部の(・・・)部下〟というのは、あの(・・)郊外キャンプに同行して、ネモの異常さを知った者の事だろう。その人員選択が適切であった事には感謝も感心もするが、問題の焦点はそこではない。



「……関連性に気付く者が現れるのは、時間の問題――か」

「ただ――その関連に気付くというのは、大なり小なりネモの事を知っている者でしょうから……」

「……うむ。沈黙を守ってくれるという期待が……無きにしも(あら)ずというところか」



 それも含めて、もはやこの問題は、学園長の一存で決められるようなものではない。



「……終課後に密かに緊急職員会議を開く。バイロン、君も出席するように」

「はい」



・・・・・・・・



「【施錠(ロック)】で相手を束縛する――ですか……」

「まぁ、これまでのネモの所業(やらかし)を考えれば、気付いて(しか)るべきでしたな」



 ――緊急かつ秘密裡に開かれた職員会議は、のっけからウンザリとしたような諦観に支配されていた。



「しかし……【施錠(ロック)】というのは錠前にかけて、施錠を確実なものにする魔法だと思っていましたが……」

「必ずしもそうとは言えん。一部の熟練者なら、扉などを閉めた状態で直接固定する事ができる……と、そう思っておった」

「実際には……真の熟練者(・・・・・)なら、人体の動きを止める事もできるわけですな」

「それも遠く離れた位置から」

「或る意味で究極の対人魔法かと」

「いや、恐らくは人間だけでなく、魔獣であろうと同様の筈」



 能面のような表情と乾いた口調で、もはや動揺する事など()(じん)も無く、粛々と議論を進めていく教職員。或る意味で頼もしく……そして或る意味で()(びん)な光景である。



「……Aクラスの生徒には既に、ネモの【生活魔法】について口外禁止を申し渡してあるのですな?」

「うむ。ついでに言うと、ネモの家族にも口外禁止を要請してある。夏休みに帰省したネモを通じてな。家族は同意してくれたそうじゃ」

「それは……本当の本当に、重畳(ちょうじょう)でした」

「うむ……」



 学園長は改めて一同を見回すと、



「ともかく、この件については至急にネモと話し合う事にする。それと同時に先生たちには、情報の秘匿に注意してもらうとともに……」

「解っております。……精々【施錠(ロック)】の練習に励むといたしますよ」

「同じ【生活魔法】とは言え、相性というものがありそうですからな。【着火(イグニッション)】より習得が楽かもしれませんし……」



 ――〝そうでない可能性も同じくらいある〟とは、その場の誰も突っ込まなかった。



・・・・・・・・



 会議室では数日後、改めて緊急職員会議が開かれていた。



「ネモに確認したのだが……実家では魔獣を遠距離から封じていたそうじゃ」



 能面のように淡々と、そう報告するライサンダー学園長。報告を聞いている教職員の表情も、まるで()(はん)にいるかの如くに()るがない。……そう、これは既に予想された事態、言ってしまえば予定調和である。今更取り乱したりするものか。……静かに頭を抱えるだけだ。



「……成功率はどうなのです?」

「ネモ曰く――(とっ)()(せん)で実戦投入するにはまだ未熟――だそうじゃ。掏摸(すり)に奇襲を仕掛けるのが精々……とも言うておったな」

「それは……充分に使用に耐えるレベルに思えますが……」

生半(なまはん)()に使い慣れて、(とっ)()の際に不発に終わったら危険過ぎる……というのがネモの言い分でな。……彼に言わせると、【着火(イグニッション)】よりよりも少しだけ発動に時間がかかるそうじゃ」

「なるほど……」

「実戦ではその一瞬が命取り――ですか」



 有用性は疑うべくも無いが、実戦での使用にはまだ課題を残すという事か。



「秘匿については? ネモの同意は得られましたか?」

「できなんだ。身の安全を絶対的に保証できないのであれば、使用禁止には同意しかねる――そう言われてな」



 何しろ――まだ明かしていないとは言え――弟妹たちの事もあるので、ここはネモも退くわけにはいかない。

 学園側も勝手な言い分だという自覚があるので、(みだ)りな使用をしないように要請するのが精々(せいぜい)であった。



「ただ……ネモは面白い代案を出してきた」

「ほぉ……」



 あのネモが出してきた代案とは? 聞くだに興味を引かれるではないか。



「【施錠(ロック)】についてはできるだけ使用しない事の他に、万一の場合は別の魔法だと言い張ってはどうかというのじゃよ。……【停止】とか【ステイシス】とか、ありもせん魔法の名前を出して(けむ)に巻いては――とな」


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― 新着の感想 ―
[一言] 燃焼が酸化であり発火は瞬間的な酸化反応の促進である、という知識がないと難しい着火と比べると、 錠前から扉、扉から周辺、小物全般、人や魔獣、といけるロックの方が学びやすそう。
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