第三十八章 創立祭~楽日~ 7.出店へのお誘い
~Side ネモ~
適当な出店で何か腹に入れてくか――と考えていたら……
「お兄さん! お昼ご飯ならどうかうちのお店で!」
……いきなり袖を掴まれて驚いた。思わず振り返ってみたら、袖を掴まえてるのは女の子。ネイラと同じくらい……いや、少し上か?
大抵のやつは初めて俺と顔付き合わせると泣き出すか、少なくとも顔を引き攣らせるもんだが……この子は相変わらずニコニコと愛想笑いを崩さないな。
……気に入った!!
「ここで出店をやってるって事は、嬢ちゃんは生徒の身内ってとこか?」
「はい! お兄ちゃんが!」
ほぉ……年格好から見て、生徒の妹か?
「なら案内してもらおうか」
「はい! お一人様ご案内! あ、あたし、メイベルっていいます。今後ともご贔屓に!」
「へぇ、メイベルか、良い名だな……」
……って……メイベル!? ナイジェルの妹のメイベルか!? ナイジェルのしっかり者の妹で、可愛いのに攻略対象じゃないってんで、俺の妹みたいな一部のファンを残念がらせた……いや、そうじゃなくてだな……
……そう言えば確か、ナイジェルの妹と知り合うイベントがあったような……客引きをやってるメイベルに捕まるんだったっけな……いや、待て……
ゲームでは……このエピソードでメイベルと知り合うのは、確か……よし!
「……折角のお誘いだ。知り合いがこの辺りにいる筈だから、そいつも誘って連れて行こう」
「わぁ! ありがとうございます♪」
ゲームのスクショだと、確かこっちに……いた!
「よぉレオ、モートン先生も。丁度好かった」
「「ネ、ネモ!?」」
ゲームだと、メイベルと知り合う相手はランダムで決まるんだが、出現する場所は決まってるんだよな。今日はレオとディロン・モートン先生だったか。
愛想良く微笑んだつもりなんだが……おぃおぃ、まさか怯えてるのか?
「――この人たちですか!?」
「あぁそうだ、二人ともナイジェルとは知り合いだから、喜んで付き合ってくれる筈だぞ」
「「……は?」」
「あれ? お兄ちゃんの事、知ってるんですか?」
……しまったな。うっかりとメイベルの素性を知ってるような事を口走っちまった。まぁ、気付いてないみたいだが。……いや……確かこの子、歳のわりに結構な曲者だったしな。気付いてて知らんぷりしてるのかもしれんが……まぁいいか。
「俺はこの二人を連れてくから、先に行って用意しといてくれるか? ……あぁ、店の場所を教えてくれ」
「はい!」
……さて、事情が解っていないらしい二人を引き摺ってくか。
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~Side メイベル~
「……頭にスライムを乗っけた、背の高い男?」
「ナイジェル……それって……」
さっきのお客さんの事をお兄ちゃんとクラリスお姉ちゃんに話したら、やっぱり知り合いだったみたい。あたしの事も、お兄ちゃんの妹だって判ってたみたいだし。
「……よく平気だったな、お前。目つき悪いだろ? ネモのやつ」
あのお兄ちゃん、ネモっていうのかぁ。ちょっと悪っぽい雰囲気はあったけど、
「だって、頭にスライム乗せてたもん。スライムは臆病だから、悪い人には近付かないって、司祭様が言ってたじゃない」
「……いや……あのスライムは特別だと思うぞ……」
特別なスライムなんているのかな?
「……それはいいけどメイベル、あんた、肝心な事を忘れてないでしょうね? 誰か係の人を連れて来いって言ったでしょ?」
「大丈夫! ネモのお兄ちゃんが連れて来てる! モートン先生って言ってた」
「「モートン先生!?」」
……何でビックリしてんだろ?