第三十八章 創立祭~楽日~ 4.不審者(その2)
~Side ???~
やれやれ……寿命が十年は縮まったわい。孫娘のドルシラから聞いて、ひょっとして出会したりせんものかと、従魔術科へやって来たんじゃが……選りに選って最悪の出会い方をしてしもぅた。……まぁ、あの少年の力量を測れるかなどと、浅はかにも嗾けた儂が悪いんじゃが……それにしても……
「……レミディオ、お主らしくもなかったの?」
レミディオが直ぐに構えを解いてくれれば、ここまでの騒ぎになる事は無かった筈じゃが……
「……申し訳ありません。……ですが……気を張っていないと、倒れそうだったので……」
「何? ……大陸七剣の一人、〝双剣のレミディオ〟ともあろう者がか?」
「お恥ずかしい限りです……」
いや……噂には聞いておったが……それほどのものか?
「敵に廻すと危険――それは身に沁みて判りましたが、それ以上は何も判りませんでした。アレンと互角に打ち合ったと聞きますから、棒術の腕は確かなのでしょう。……ですが……それ以外にも何か、奥の手を隠し持っています。……それが何なのか、見当も付きません。……途方も無く剣呑だという事以外」
なんと……
確かに学園内という事で武器の持ち込みは禁じられ、レミディオ十八番の双剣も、儂のマジックバッグに仕舞い込んだままじゃが……
「この手に愛剣があれば――などと、泣き言を云うつもりはありません。ですが、遺憾ながら自分は短剣や体術は嗜む程度に過ぎません。一方であの少年は、体術の方もそれなり以上の遣い手だと見ました。今の自分では互角に持ち込むのすら難しいでしょう。加えてあのスライムがいます」
うぅむ……あのスライムの事はドルシラからも聞いておるが……魔法攻撃が防がれるとしても、互いに得物の無い状態であればと思うたのは、浅慮じゃったか。
……能く考えてみれば、ここは「魔導学園」で、あの少年はここの生徒じゃったな。通常の魔法にはそこまで熟達しておらんと聞いたが……そうでない魔法が常識外れじゃとか……。武闘会の印象が強過ぎて、ついぞ失念しておったわい……
「いえ、ですが彼の為人については、我が師フォゼカイアが確認しております。無体な事をされない限り、心配は無用との事でしたが」
ふむ……フランデル君じゃったかな。師匠であるフォゼカイア師の見立てを軽んじられたように感じたか? フォゼカイア師の見解については儂も聞き及んでおるが……
「フランデル君には迷惑をかけた。……お蔭で生き延びる事ができたわい」
「あ、いえ……」
「どうも妙な誤解をされておったようじゃからな。君の取りなしが無ければ、どういう事になっておったやら」
……まさか、謀反人の一味と誤解されておったとは思わなんだが……キャンプではその手のやつらを向こうに廻して大立ち廻りをやらかしたそうじゃから……無理もないかもしれんのぉ……
後でドルシラの方からも、説明と詫びを入れてもらわねばなるまい。やれやれ、この歳になってとんだ不手際を晒したものよ。
……彼の為人については、後で詫び旁々学園長に訊いてみるとするか。
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~Side ネモ~
『マスター やつら なにものー?』
『レンフォールのお嬢の爺さんと、その護衛みたいだな。【他心通】で探ったところじゃ』
爺さんも若いのも余裕を無くしてたようだったし、その隙を衝いて探りを入れてみた。【鑑定】だと弾かれたり気取られたりする危険性が無視できなかったんで、悪神様から貰った【他心通】を使ってみたんだが。……まぁ、俺の【鑑定】は【眼力】のサブスキルだし、そう簡単に弾かれたり気付かれたりしないとは思うが、こういうのは用心に越した事は無いからな。
それにしても……あの兄ちゃんも大陸七剣の一人なのか。アレンと同格らしいし、結構やりそうな感じだったよな。――少なくとも、【眼力】抜きじゃ厳しいくらいには。
『ふーん なにしにきてたのー?』
『さてな。一応は俺に興味があったみたいだが……』
好々爺っぽく見えても、年寄りってのは外見と腹の中が一致しないからなぁ……ゼハン祖父ちゃんなんかその好例だし。
『ま、あっちはギルベールに任せたんだ。俺たちは温和しく見物して廻るとするか』
『さんせー』