第三十八章 創立祭~楽日~ 3.不審者(その1)
~Side ネモ~
従魔術科の見学を終えて教室を後にした――従魔たちがほっとしたような気配を見せた。くそ――ところで……俺たちの方を窺っている者がいるのに気が付いた。
気配からすると、ついさっきやって来たばかりのようだ。見れば身分のありそうな爺さんとその護衛って感じだが……ただ……この護衛、さっきからこっちを剣呑な目つきで眺めてやがるんだよな。……まぁ目つきについちゃ、俺だって偉そうな事を言える立場じゃないんだが……
『マスター やなかんじだねー』
『だな』
ま、俺が――前世から引き続いて――悪人顔らしい事は自覚してるし、警戒するだけならとやかく言うつもりは無かったんだが……おぃ……殺気を放つって事は、学園内でドンパチやらかそうって事か? さすがにそいつは看過できんぞ?
『マスター やっちゃうー?』
『あぁ、あちらさんはそれをお望みらしいからな』
こいつが隊長さんたちの懸念していたテロ犯だってんなら、この場で後腐れ無く片付けておいた方がいいだろう。
――そう思って、俺とヴィクも戦闘態勢に入ったんだが……
「あぁ、これこれ、ちょっと待ってくれ。これは誤解なんじゃ。少し話を聞いてくれんか」
……テロ一味の爺が何か慌ててるようだが……そんな戯言、誰が聞くかってんだ。まず、目の前のこいつに武装解除させるのが先だろうが。手順を履き違えてんじゃねぇ。……先に爺の方を片付けるか?
「……だから……誤解じゃと言うておろうが。……レミディオ、お主も引かんか」
……能く喋る爺だが……目の前のやつは相変わらず闘る気満々で、聞く耳持たんって感じだな。どうやら爺の指揮下にはないようだし……やっぱり、こいつから先に始末するか……
「ネモ君! 待って、待ってくれ!」
……声からすると、従魔術科助手のギルベールか? 俺はこいつから目を離せんから、ヴィクに確認してもらうとしよう。……従魔と感覚を同期させる事もできるんだが……スライムの感覚って、人間のそれと違い過ぎてて能く判んねぇんだよな。ヴィクから報告してもらった方が早いわ。
『マスター さっき へやにいたにんげんだよー ギルベールって よばれてたー』
――どうやら間違ってなかったか。
「ネモ君! こちらの方の身許は僕が保証するから! そっちの護衛の人もだから!」
ギルベールが保証するって事は、大丈夫なのか? 一応、確認しておくか。
「……テロ……無差別殺人犯とかじゃないんですか? 国家転覆を謀る?」
「無差……ち、違う! この場で家名を言うのは差し控えさせてもらうが、然るべき家柄の方だ!」
貴族にだって謀反人はいるぞ? あの三馬鹿だってそうだったろうが。ゲームの展開に従うなら、この先大物貴族が謀叛を企てる筈なんだが?
……まぁ、ここはギルベールの顔を立てておくか。……何かあったらこいつに責任をおっ被せよう。
「醜聞に興味は無いんで、家名を聞くのは遠慮しますよ。ただ……俺がいなくて大丈夫ですか?」
「大丈夫! 大丈夫だから!」
そういう事ならこの場は退くか。……けど一応、隊長さん方には話を通しておいた方が良いな。