第三十八章 創立祭~楽日~ 1.従魔術科(その1)
~Side ネモ~
創立祭の最終日は中等部の発表がメインになる。一般人には少し難解な内容が増えるためか、発表自体はあまりウケがよくない。そのため、成果発表よりも展示即売や就活アピールがメインになっているようだ。就活という側面を持つせいか、販売品にも庶民向けと言うより富裕層向けのものが増えているらしい。ただ、これはこれで、物見高い連中の関心を引いているんだとか。
セレブも就活も今の俺には関係無いが、ま、見れるものは見ておくか。どうせ何をやるという当てがあるわけじゃなし。
『マスター どこいくのー?』
『最初は従魔術科からだな。昨日一応、お誘いを受けたわけだし』
フォゼカイアの爺さんやギルベールの顔を潰すわけにもいかんだろう。それに、昨日は結局従魔術科の見学ができなかったしな。中等部の従魔ならそれなりだろうし、昨日みたいな為体にゃならんだろ。
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『マスター あっちのほう なにかいるよー』
――というヴィクの案内に従って来てみたんだが……なんだこりゃ? 強面の魔獣がゾロリと並んでいるんだが……これって従魔か?
『ヘルファイアリンクスにグレイシャーウルフ……ロングホーンディアまで……こんなのを校舎内に連れ込んでいいのかよ』
さすが中等部は違うわと感心していたら、
『マスター いりぐち むこうみたいだよー?』
ははぁ……こんな強面が勢揃いしてちゃ、冷やかしのやつらどころか本命の客もビビって近寄れないんじゃないかと思ってたら……入り口は向こうかよ。こいつらを遠目に見物した後で、距離を取って教室内に入れるって寸法か。要は客寄せパンダかよ、こいつら。従魔としちゃ不本意な扱いなんじゃないのか?
『こっち みてるねー』
昨日みたいにパニクるやつはいないが、それでもチラチラとこっちを窺ってるな。何頭かは俺じゃなくてヴィクが気になってるみたいだが……
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~Side ギルベール~
結局、コーギー教授は今日もお休みになられた。このところ体調が思わしくないとおっしゃってたが……今日の欠席は、自分にお偉方との伝手を作らせようとのご配慮だろうな。……面倒臭いというのも半分くらいはありそうだが……
まぁともかく、今日は自分がこの場の責任者として動かねばならない。コーギー先生からの指示を生徒たちに伝えていると……表が少しざわついているのに気が付いた。これは……従魔たちがどうかしたのか?
(「うわぁ……少しだけど、ウチの子が怯えてるよ……」)
(「あたしの従魔も警戒してる……あの子も敵意は無いみたいだけど……」)
(「……俺にも判る。滲み出る威圧感が半端じゃないな。……本人にその気は無いみたいだが……」)
(「あれなら従魔なんか要らんだろう」)
(「ペット感覚なんじゃないかしら?」)
見れば生徒たちが入り口に並んで、互いに何やら囁き交わしている。
(「そんな中で、あの子のスライムだけが平気な様子をしてる件」)
(「……胆の据わったスライムだ」)
(「ある意味で一番の大物かもしれんな……」)
……事情が呑み込めた。ネモ君がやって来たんだろう。
初等部の従魔はともかく、ここ中等部なら大丈夫だろうと思っていたが……やはり生徒たちには少々荷が重かったようだ。
……ともかく、この状況を何とかしないと。生徒たちが入り口に並んでいるせいで、ネモ君も困っている様子だし。
「ちょっといいかな?」
「――はい?」
「あ、フランデル先生」
「道を空けてくれないか? あの子が昨日話したネモ君だよ」
「あ……やっぱり……」
「噂には聞いていましたけど……」
「何と言うか、威圧……と言うか、存在感が凄いですね」
「敵対的な雰囲気は感じませんから、威圧とかじゃないんでしょうけど……」
「本人もそれは気にしてるみたいだから、あまり掘り下げないでほしいかな」
フォゼカイア師からも話を聞かされている事だし……ここは仁義を通しておかないと。