第三十七章 創立祭~中日~ 4.冶金科(その2)
今年最後の更新です。
~Side ネモ~
――そう力説したんだが……この先輩、圧力鍋という発想が理解できないらしく、誰か話の解る者を呼んで来ると言って姿を消した。まぁ、俺もこっちの世界で圧力鍋の類を見た事が無いからな。無理ないかもしれん。
「あ? 変なのが来たってぇから誰かと思えば……ネモじゃねぇか」
――という声と共に現れたのは、冶金学の担当教官である……
「モルダーフ先生、どうも」
……おぃ先輩よ、言うに事欠いて〝変なの〟は無いだろう。
「展示見本を欲しがってるって話だったが……どういうこった?」
同じ事を再び繰り返す羽目になったんだが……
「――よし。話だけじゃ能く解らんから、実際に何か作ってみろ」
……こっちはこっちで、とんでもない事を言い出したな。
「いや、何かって……食材はあるんですか?」
「あぁ? 鍛冶場にそんなもんあるわきゃねぇだろうが。【収納】持ちなら何か持ってんだろう」
……教室を鍛冶場って言い切ったよ、このオッサン。いや、それはともかく……いきなりそんな事言われてもなぁ……ダッチオーブンで簡単・短時間に作れるものなんて……
「――ちょ、ちょっと、駄目ですよ先生」
さっきの生徒とは別の上級生らしいのが割って入った。
「あ? 解らん事はやってみる――真っ当至極な方法だろうが?」
「方針は真っ当でも、場所は適切じゃありません! こないだも研究室で蒸溜酒を作ろうとして、学務から雷を落とされたばかりじゃないですか。少しは自重して下さい!」
おぉ……日頃からそんな事やってんのかよ、この先生――と、内心で感心し、また呆れていると、
「君も君だ! 先生を唆すような真似は慎んでくれ!」
件の上級生っぽいのがキッと振り向いて俺を咎めるんだが……おぃ、そりゃ言い掛かりってもんだろう。俺はただこのダッチオーブンを売ってくれと頼んだだけだぞ? それが何で唆す云々って話になる?
あまりな言いように腹が立ったから、ヴィクと一緒に軽く――スキルは使わずに――睨んでやると、途端に青くなって震えだした。威勢の良いのは口先だけかよ。
そんな感じでグダグダの膠着状態に陥っていると……
「まぁちょっと待ってくれ。……ネモ君だったね? トマソン君が卒倒しそうだから、少し睨むのを止めてもらえないか?」
困ったような声で割って入った兄ちゃんがいた。
「トマソン君、君も君だ。例によって先生が暴走しただけで、ネモ君には何の非も無いだろう。彼を咎めるのは筋違いだよ」
「あ……はい……」
「……おぃヘルムート、例によってたぁ、どういう……」
「モルダーフ先生、仮にも教室で火を焚くような真似ができないのは、少し考えたら子供でも解るでしょう。一応、首の上に乗っかっているものがあるんですから、少しは使って下さいね」
……おぉ……俺も口は悪い方だが……この兄ちゃんは更にその上を行くな。慇懃無礼に毒を吐いたよ。……それで先生も文句を言わないって事は……しょっちゅうモルダーフ先生の尻拭いをして廻ってるんだろうな、この兄ちゃん。俺たち三人をサラッと窘めて事を収めた辺り、ただ者じゃないとは思うんだが……?
「あ、自己紹介がまだだったね。僕はヘルムート、この学科の助手をやってる」
「……問題児の教官と問題児の生徒のお守り役ですか?」
「「――おい」」
「まぁ、そういうところだね」
「「――ちょっと」」
ふむ……俺も同じような立場だから、親近感が湧くな。世間知らずの坊ちゃん嬢ちゃんを纏めるのは骨だからな。
「それでネモ君――この鉄鍋は見本のための展示品でね。少なくとも創立祭が終わるまでは、譲渡も売却もできないんだよ。なのでこの件については、創立祭が終わってから相談という事にしてもらえないか? 先生が言ってた実演も、その時一緒にという事でどうかな?」
「あ、はい。俺の方は構いません」
実質上の責任者と交渉できて、話はすんなりと纏まった。……二人ほどジト目でこっちを睨んでるのがいるが……無視一択だな。
来年の更新は1/5からになります。
それではよいお年をお迎えください。