第三十七章 創立祭~中日~ 1.従魔術科
~Side ネモ~
さて、創立祭の二日目は、初等部各学科の一般公開だ。昨日は一応学外者に遠慮した俺だが、今日は遠慮する気は無い。今後の進路を決める上での参考にもなるからな。しっかり見学させてもらうぜ。……お偉方の行列に出会さないよう、注意はするけどな。
まずは大本命の従魔術科だな。
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「……ご免なさい。何か従魔たちが怯えてるから……」
「……本当に申し訳ない。……けど、……」
「……あぁ……悪気が無いのは解ってますから……」
……説明のパネルをざっと眺めてから、従魔との触れ合いコーナーってのを覗いたんだが……まさか従魔たちが揃って怯出すたぁ思わなんだ。パニックを起こすと危険だからって、おん出されちまったぃ……
教官がいれば、従魔たちを何とか落ち着かせる事もできたらしいが……生憎と席を外してるんだと。
……前世現世を通じて、あまり動物にゃ好かれない質だって自覚はあったんだが……まさか魔獣までそうだとは……
『マスター? ヴィクはマスターのこと すきだよー?』
……ヴィクの優しさが身に沁みるぜ。
気を取り直してこの件について考えてみるとするか。
――まず、専攻先が一つ消えたな。
ヴィク以外の動物をテイムできないとなると、従魔術師としての選択肢が減るのは間違い無い。つまり従魔術師を本職にする事はできないって事だ。……て言うかそれ以前に、選択科目として学園で授業を受けるの自体が難しそうだ。
ま、俺としてはヴィクがいれば充分ちゃ充分なんだが。従魔術自体はフォゼカイアの爺さんに習えばいいか。ヴィクとの付き合いは長くなりそうだし、従魔術だって知っておくに越した事は無いだろう。
『よわっちいのなんか だめだよー?』
……あぁそうか。ヴィク並みに強いか、もしくは肝の太いやつなら大丈夫なのか? ……そう言やいつかの迷子の仔猫も、俺の事を怖がらなかったっけな。……ひょっとして、全く望みが無いってわけでもないかもしれん。
――そんな事を考えていると、後ろから駆け寄って来る足音を耳にした。
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「――いや、席を外していて申し訳無かった。退っ引きならない所用があって」
俺の目の前で陳弁にこれ務めているのは、さっき追い出された従魔術科の助手で、ギルベール・フランデルっていう優秀な従魔術師だ。どれくらい優秀かって言うと……ゲームの「運命の騎士たち」本編で、国王府の従魔術師として活躍するくらいっていう……端的に言うと、ひっそり生きるのを人生の目標にしている俺としては、お近付きになりたくない相手って事だな。
ゲーム本編では攻略できなかったキャラで、前世の妹もあまり詳しく語らなかったのと……確か「プレリュード」には登場しない筈だったから、完全に頭から抜け落ちてたわ……
「いえ、構いませんけど……フォゼカイアの爺さ……老師から話が?」
「あぁ。有望な人材がいるから、機会があれば縁を繋いでおくようにと言われてね。ひょっとして一般公開で会えるかもしれないとは思っていたんだが……まさか……」
あぁ、まさか従魔をビビらせて、出禁を喰らうとは思わなかったわけだな。ま、俺にしたって予想外だったんだから、無理もない。察するに学生たちから話を聞いて、慌てて追って来たってところか。
「気にしないで下さい。何か俺、目つきが悪いらしくて、人からも動物からも怖がられるんですよ。懐いてくれたのはヴィクくらいで」
そう言うと、ギルベールはきまり悪そうに目を逸らした。……やっぱり俺の目つきって、凶悪化してるのか?
ま、目つきが悪化する前から、近寄って来る動物なんかいなかったけどな。例外は凶暴な魔獣だけ。……怯える代わりに殺意満々で襲って来たけどな!
「まぁ、そんな訳ですから、従魔術科にはお邪魔できそうにありません。ご期待に添えず、申し訳ありませんでした」
これで縁切りだと思ったんだが……
「あ……いや……初等部は無理だろうけど、中等部なら大丈夫だと思う。ネモ君さえよかったら、明日の一般公開に来てくれないかな。色々と助言くらいはしてあげられると思うから」
中等部か……。確かに、従魔術についてのアドバイスは欲しいところだな。気が向いたら行ってみるとするか。