第三十六章 創立祭~初日~ 3.再会
~Side ネモ~
そんな感じでただブラブラと校庭を彷徨いていた俺たちは、そこで意外な人物と出会う事になった。
「よぉ坊主、時化た面してどうしたよ?」
「浮かない顔だな。何かあったのか?」
キャンプの時にお世話になった、特務騎士団のバンクロフツ隊長と近衛騎士団のマクルーア隊長だった。
「いえ……別に大した事じゃ……それより、お二人はどうしてこちらへ?」
「まぁ、警備という事になるな、一応は」
「……警備? 隊長職のお二人が直々に見廻りを?」
騎士団ってそこまで人手不足なのかよ? そう思って訊いてみたんだが、
「あぁ、いや、そういうわけじゃない」
「食事に出たら、参観者が妙な動きをしていたので気になってな」
……原因は俺かよ……
「何、大方坊主の貫禄に当てられたんだろう。気にすんな」
「そう言ってもらえるのは有り難いですけどね……あぁも見事に避けられると……」
今回は隊長さん方に迷惑もかけちまったしな。
「能く知りもしない相手に狎れ狎れしく付き纏われるよりはマシだろう。自分の部下にそういうのがいるが、しょっちゅう愚痴を零してるぞ」
マクルーア隊長……ひょっとしてその部下さんって、美人の女性か何かじゃないんですか?
「まぁそうだが……こういう問題には男も女も無いだろう?」
……コメントしづらい意見だな。……バンクロフツ隊長も微妙な顔だし。
「ま、その事ぁいいとしてだ。坊主はこの後どうすんだ?」
バンクロフツ隊長……力業で話題を変えたな。まぁ、俺としてもその方が助かるが。
「いえ、特には。その辺を適当にぶらついてから下宿へ戻ろうかと」
「あぁ……坊主は寮じゃなくて、町に下宿してるんだっけか」
「そうですが……何か?」
「いや、別に不都合だって言ってるわけじゃねぇから、そう睨むなって」
……別に睨んでなんかいないんだが……そこまで悪化したのかな、俺の目つき。
「いえ……これは俺の普段の顔ですけど……」
「――そ、そうか。悪かった」
「……で?」
「あ、あぁ、特に予定が無ぇんなら、できたら学園内を見廻ってもらえると助かると思ってな」
「見廻りって……何か不穏な動きでも?」
ゲームでは襲撃イベントは無かった筈だが……このところ立て続けにゲームの展開をぶっ潰してるからな。予定調和から外れた展開が出てきてもおかしくはないか。
「いや、特にそういう動きは無いが」
「念には念を入れて――ってとこだな」
「謀反人どもの斥候を立て続けに看破してのけた君なら、打って付けだろうと思うのでね」
……まぁ、別に予定があったわけじゃないから構わないが……
「そりゃ、挙動不審の者を見かけたらお知らせするくらいはできますけど……」
そもそも俺はその辺を適当にぶらつくつもりで、お偉方に近付く予定は無いんだが?
「あぁ、お偉方の周りはがっちりと固めてっから、気にすんな」
さすがにそこは手を抜かないか。……けど、無差別テロに対する備えはどうなんだ?
「……合宿の時に坊主が言ってた、一般生徒狙いってのと同じか……」
「確かに可能性が無いとは言えないが、そういう没義道は教会や市民感情が許さないからな。神罰が下った事もあったと聞くし」
「下手ぁすりゃ自分の家族にまで禍が及ぶんだ。そんな命令、従うやつぁいねぇよ」
「国民の信を失っては、元も子も無いからな」
宗教戦争とかだと、異教徒は根絶やしっていうのがあってもおかしくないと思ったんだが……。あぁそうか、こっちの世界じゃ神様が身近で普遍的な分だけ、そういう対立は生まれにくいのか。
だが――甘いな。
「ものの道理も解らない子供を使ったり、それと知らせずに危険物を運ばせる事だってできるんじゃないですか? そこまでやらなくても、人間じゃなくて動物とか、ゴーレムやアンデッドを使うとか?」
前世の地球じゃ有り触れた手だったぞ?
そう言ってやると隊長さん方はひくついていたが、
「坊主……その歳でそんな事を考えてんのか」
「過去に前例があったから、それなりの対策は取られている。詳しくは言えないが」
「それよか坊主、他のやつらの前じゃそんな事ぁ口に出すなよ?」
「うむ。不穏分子として拘引されてもおかしくないな」
「え~?」
この程度、お茶の間の知識レベルじゃないのか?
・・・・・・・・
まぁとにかく、テロ対策は一応なされているんだろうという事で、俺は隊長さんたちと別れてその辺を適当に見廻る事にした。俺が睨みをきかせてるだけで充分――なんてバンクロフツ隊長は言ってたけどな。
そんな感じでブラブラと歩いてたら、顔見知りの冒険者に出会した。冒険者ギルドからの依頼で、学園祭の警備を請け負ってるそうだ。……そんな依頼もあったんだな。知らんかったわ。
「学園内だけじゃねぇぜ? この期間は市内でも厳罰主義で対応って事になってんだ。掏摸なぞやらかした日にゃ、手首切断って事もあるから、地元の連中は温和しくしてんだが……」
「あぁ……事情を知らない他所者が、良い稼ぎ場とばかりに集まんのか」
「身の程知らずの馬鹿どももな。だから俺らにも臨時で警備依頼が舞い込んでくんのよ」
普段なら警備隊の仕事だもんな。面子にかけても他人の手は借りん――とか言いそうだけど、さすがに背に腹は替えられないか。
「ま、学園祭の警備は楽だろうってんで、集まりが良かったんだがな」
「……そうなのか?」
まぁ、学園固有の警備陣もいる上に、お偉いさんの警備のために騎士団まで出動してるからなぁ。
「そうじゃねぇよ。『凶眼の断罪者』が通ってる学園でコトを起こそうなんて、どんな身の程知らずの馬鹿だって考えねぇからな。他所者にだけ目を光らせてりゃいいんだから、こかぁ他と違って楽だって事よ」
……おぃ……




