第三十四章 魔石奇譚 4.真相
~Side ネモ~
魔石とは融けるものじゃないという――俺にとっては――衝撃の事実を教えられたその日、俺は下宿の自室で【魔力操作】の特訓に励んでいた。ポールトン先生の言うとおり、ヴィクから魔力の扱い方を教わる事はできたんだが……
『やっぱり きえちゃうねー』
『そうだな……』
メイハンド先生から貰ってきた屑魔石を使ってチェックしてるんだが、ヴィクに教わったとおり魔力を操作しても……相変わらず魔石は消えるんだよな。
そもそも、元凶となるのが【魔力操作】というイーガン先生の推理に問題があると思うんだ。イーガン先生は消去法でその結論に至ったみたいだが……
『……ユニークスキルとか称号とか加護とか……隠してる情報が多いからなぁ……』
確かに【魔力操作】でネロの魔力を動かす事はできたが、あれだって意識しないとできなかった。なのに無意識に魔力を吸収した――っていうのは無理が無いか? 第一、魔力を動かすのと吸収するのとは違うだろう。
俺としては――やっぱり消去法で――加護が怪しいんじゃないかと考えてる。称号も怪しいと言えば怪しいんだが……魔力を吸収するような効果は無いみたいだしな。
何が元凶なのかはさて措き、問題なのは無意識な魔力の吸収をコントロールできない事だ。このままじゃ「魔道具作製」の実習が受けられない。どうしたものかと考え込んでいたら……
《トゥルロロロロロロロロッ♪》
「おわっ!?」
『マスター どうしたのー?』
いきなり鳴り響いた着信音に驚いたが……これって……神様からのホットラインだよな? 恐る恐る通話のボタンを押すと……
『もしもし、通じたかの?』
『……最高神様? どうしたんです?』
またしても通話の相手は最高神様だった。
『いや何、こちらで与えた加護に、ちょっとした問題点が見つかったのでな。お主も気付いておるようじゃが』
『……ひょっとしてあれですか? 触った魔石が消えるという……?』
『そうそう、それじゃ。闘神の与えた加護の効果が、少しばかり高過ぎたようでの』
――原因は、闘神様の加護だった。
最高神様の説明を要約すると、「闘神の加護」には身体の成長・強化を促進する効果があったらしい。俺のステータス値が高いのも、この加護のお蔭であったようだ。
で、この加護なんだが――成長や強化を促すために、栄養や魔力の吸収効率を高めているそうで、身の周りの遊離魔力なんかもその対象になるらしい。
『触った魔石なんかもその対象――というわけですか……』
『そういう事じゃ。ただのぉ……今はまだ問題無いレベルなんじゃが……』
いや……既に問題が出ているんですけど……
『……この先加護が強まってくると、傍にいる人間から魔力を吸収するような羽目にならんとも限らんでな』
……いや……それって……吸血鬼ルート一直線って事ですか?
『迂闊にも、儂らはそれに気付かなんだのじゃが……悪神がその可能性に気付いてくれての』
……残念そうな声で忠告してくれたらしい。……悪神様的には、吸血鬼ルートを見たかったんだろうな、きっと。
『とりあえず、加護をアップデートしておいたからの。周囲からの魔力吸収をオンオフできるようになっておる筈じゃから、確認してみてくれるかの?』
『……待って下さい……加護のオプションって……あぁ、これかな? あ……確かにありますね。これをオフにして……お?』
最高神様の言うとおりに設定を変更したら、触っていても魔石が消えなくなった。
『あー マスター きえないよー』
『……上手くいったな。神様のお蔭だ。ヴィクもありがとな』
『かみさまー?』
『おぉそうじゃ。ヴィクというたか、そのスライムにも加護を与えておこうかの』
『――え゛?』
慌ててヴィクを鑑定してみたら、鑑定画面に燦然と輝く「最高神の加護」の文字。
『むー? なんか ちょうしがよくなったかんじー?』
『あ、あの……最高神様……これって……』
『何、些細な詫びじゃて。それではの』
プツンという感じで通話が切れたんだが……いいのか? これ。どのみち秘匿は決定なんだが。
・・・・・・・・
……後で確認してみたら、【魔力操作】……前々から色々と訓練していたせいか、こっちでも周囲の魔力を操ったり吸収したりする事ができるようになっていた。……こっちはパッシブじゃないから、その点では安心ではあるんだが……
「……まぁ、先生方を納得させる事ができると思えばいいか……」