第三十四章 魔石奇譚 2.消える魔石(その1)
~Side ネモ~
揃いも揃って鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしてやがるが……止ん事無き家柄の坊ちゃん嬢ちゃんはご存じないのか? 下手に素手で触ると、色が褪せたり融けたりするんだぞ、あれは。……まぁ、直接触らない限りは大丈夫だけどな。
故郷にいた時何度か魔石を取り出す機会があったんだが、ナイフの先で慎重にほじくり出して、小枝を箸のように使って扱ってたもんだ。袋に仕舞うまでは気が抜けなかったな。
「……そんな話は初めて聞いたよ……」
「いや待てネモ。出入りの商人から魔石を見せてもらった事があるが、普通に素手で扱っていたぞ?」
「だから、採集してから何かの処理が必要なんじゃないのか?」
「そう……なのか……?」
コンラートのやつ眉根を寄せて考え込んでいるが、素手で魔石に触れると色褪せたり融けたりするというのは事実だからな。
「多分だが、授業ではその辺りの説明から始めるんじゃないのか?」
「……そんな話、初めて聞いたんだけど……」
「いや……言われてみれば、魔獣から魔石を取り出した事は無いからな……」
「市中に出廻っている魔石は、あれは処理済みのものなのか?」
「……祖父が若い頃の体験談を話してくれた時に、そんな話は出なかったのだけど……」
当たり前の事だから省いたんじゃねぇのか?
「「「「「う~ん……?」」」」」
・・・・・・・・
昼休み、どうしても納得がいかないというやつらに連れられて、俺は魔道具作製の授業担当であるメイハンド教授の部屋を訪れていた。嘘じゃないってのに……全く疑り深いやつらだ。
「……いや……私もそういうのは初耳だけどね……」
「え……?」
「「「「「やっぱり」」」」」
「ちょっと待っていてくれたまえ」
俺が呆然としていると、メイハンド先生はそう断って席を立ち……暫くして戻って来た時には、カサヴェテス先生(魔法実技)とポールトン先生(魔法学基礎)、ついでにイーガン先生(魔術史)まで一緒だった。……一体何だってんだ……
「さてネモ、メイハンド先生がおっしゃるには、君は魔石を融かして吸収できるという事だったが?」
いや……吸収できるかどうかは知りませんって。ただ、素手で触ったら魔石が融けたり色褪せたりするってだけですよ。
「その……融けた魔石はどうなるの? 融けたままなのかしら?」
「いえ……正確に言えば、融けるように無くなります」
「やはり吸収しているのではないかね」
「いえ……ですから……吸収したかどうかは自分には判りません。確認できるのは〝消える〟という事だけなんで」
「ならば確認してみるとしよう。幸いここには潤沢な魔石の備蓄があるのでね」
そう言うと、メイハンド先生は革袋から小さめの……マッチの軸頭くらいの魔石を取り出した。……あんな小さな魔石もあるんだな。故郷で蛇どもから採ってた魔石は、もう少し大きかったんだが。
……メイハンド先生、素手で魔石を扱ってるけど……確かに融ける様子は無いな。
「さてネモ」
「あ、はい」
先生が魔石を渡してきたので、俺も素手で受け取ったんだが……結果は直ぐに現れた。
「……おぉ……本当に……」
「……見る間に消えて無くなりましたね……」
だから言っただろうが。……俺の責任じゃないからな?
『あー マスター ヴィクとおなじことしてるー』
……ん?
拙作「転生者は世間知らず」ですが、書籍版二巻発売を記念して、本日20時頃にSSを公開の予定です。宜しければこちらもご覧下さい。