表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/356

第三十四章 魔石奇譚 1.始まりはマントから

 ~Side ネモ~


「冬仕様のマントねぇ……」


 これから冬に向かうという事で、学園から防寒用のマントが支給される事になった。今まで着用していたものよりも厚手で、丈も長い。ただ……


「マントなら自前のやつがあるんだがな」


 支給されたのは何の(ひね)りもないデザインのマントだが、俺の持っているマントはインヴァネスコートを参考にしたケープ付きで、ケープの下に袖を出すための開口部があるから、実質的にコートとあまり変わらない。前を開ける事無く腕を使えるようにしてあるから、あっちの方が色々と使い易いんだが……


「一応これも制服だからね。学園の生徒としては、人前ではこれを着用する事が望ましい……という事のようだよ」


 ジュリアンの言うとおり、制服と言われてしまえば(いな)やは無い。通学時にはこれを着用する必要があるだろう。ただ……休みの日や放課後には、私服を着ていても問題は無い筈だ。冒険者(見習い)として採集を行なう時くらい、着慣れたマントを着ていても、(とが)められはしないよな?


「これも防寒着としては水準以上にあると思うんだけどね……」

「かもしれんな。ま、着慣れたやつの方が動き易いってだけだ。こいつを(けな)すつもりは別に無ぇよ」


 学校指定の防寒着としちゃ充分だろうよ。ただ、野外での活動ってやつを想定してないだけだ。


「ネモさんのご希望に添えるかどうかは判りませんけど、ちょっとした工夫程度のものでしたら、学園側も大目に見てくれるそうですわよ」


 改造制服ってやつか? そりゃ随分と太っ腹な……


「あ、いえ……さすがにデザインを変えるようなものは問題外でしてよ? 簡単な()(しゅう)を施すくらいですわね」

「刺繍って……内側にネームを入れるとかか?」


 そんなものは改造のうちに入らんだろう。


「だから……改造から離れろ、ネモ」

「没個性で画一的なマントに個性を与える程度なら、伝統的に黙認されているそうだよ」


 個性ねぇ……


「裏地にドラゴンとタイガーの図柄を刺繍したり――とかか?」


 学ランの裏地に龍虎相撃つ図とか、どっかの不良がやってそうだよな。……制服というより特攻服って気もするが。


「……いや……さすがにそれは……どうかな? コンラート」

「論外でしょう……論外だと思います……多分論外じゃないでしょうか……」

「何だ? 自信が無さそうだな?」

「……そこまで振るった真似をしでかした話は、聞いた事が無いからな」

「だったら、この際試して……」

()めておいた方が(よろ)しくてよ、ネモさん」

「目立つのは困ると普段から言っていなかったか?」

「これ以上先生方を困らせるのはどうかと思うよ」


 う~む……お嬢・エル・アスランから口々に駄目を出されたし……()しておくか。


「そもそも、ネモさんのおっしゃるような刺繍を、施してくれる職人の当てがありますの?」

「学園支給のマントの裏に刺繍しろなんて言われて、引き受ける職人は少ないと思うよ?」


 ……お嬢とジュリアンの言うとおりかもしれん。俺だってそこまで器用なわけじゃないしな。


「あとは……護身とか保護とかの意味で、簡単なエンチャントを付ける程度は黙認されてるそうだね」

「エンチャント? マントに魔術を付与するってのか?」


 エンチャント或いは付与術というのは、魔道具作製の根幹となる魔法技術だ。俺たちも二学期からはその基本を習う事になっていると聞くが、授業ではまだ習っていない。そんな高等技術を使えるとはさすがにAクラスは違う――と感心していたんだが、


「いや……今の僕らにそんな事ができるわけ無いだろ? 大抵は知りあいの魔術師や先輩に頼んだり、自分でやりたい者は技術を習ってからやるんだよ」


 ……そりゃそうか。


「マントに付与(エンチャント)すると言っても、魔術が効果を発揮するための魔力はどうするんだ? 着用している者の魔力を使うのか?」


 だとしたら、自前で魔法を使うのとあまり変わらない……あ、いや、自分で習得していない魔法を使えるわけか。それはそれで便利だなと思っていたら、


「まさか。魔石を使うんだよ」


 ――と、ジュリアンに一蹴された。


「魔石をどう使うんだ? アクセサリーみたいに使うのは容認されてるのか? それとも粉にするかどうかして、マントに練り込むとかするのか?」


 前世で日本人だった俺の感覚としては、学生が制服にアクセサリーを付けて登校というのは違和感があるんだが……粉にして撥水スプレーみたいな感じに使うのか?


「……練り込むというのは初めて聞いたけど……大抵はそこまで大きな魔石にはならないしね。マントの裏側に縫い付けるのが普通だったと思うよ」


 あぁ……アクセサリーというより、神社のお(まも)りとかお(ふだ)に近い感覚なのか。……そう言えば、俺も教会の護符(タリスマン)を持ってたな。故郷を出る時に家族が持たせてくれたんだ。肌身離さず持ってるけど、それと同じような感じか。


「魔石か……いずれ授業でも使うようになるんだろうが、扱いに注意しないといかんからな、あれは」


 少し面倒だなと思っていると、クラスのやつらが妙な顔をして俺を見ている。……俺、何かおかしな事を言ったか?


「……魔石って……そんなに注意を要するものだったかい? コンラート」

「いえ……そこまで面倒なものだとは聞いていませんが……」

「いや? (なま)の魔石は()けるだろ?」

「「「「「……はぁっっ!?」」」」」

拙著「転生者は世間知らず2」の書評が、「小説家になろう」当該コーナーに掲載されました。既に出版済みという事で、少しページを遡る必要がありますが……宜しければご覧下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 前のパンケーキの話からいきなり話かわってしまったのでパンケーキの話の続きはないのでしょうか ものすごく中途半端感があってもやもやするのですが
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ