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第三十三章 調理実習 2.食卓の魔術師~ステーキ篇~(その1)

 ~Side ネモ~


 さて、調理実習の前半は肉料理……ステーキか。

 そう言えば、調理実習があるから昼食は食べ過ぎないようにとのお達しがあったっけな。……エリックの阿呆は気にも留めずに飽食して、ステーキが入らないと騒いでいるが……或る意味でお約束のキャラだよな。期待を裏切らないというか。

 そして、期待を裏切らないという点では……


「お嬢……また随分と物々しいエプロンでお出ましだな」

「あら、これくらい普通でしてよ? 貴族家の子女たる者、あまり貧相な出で立ちをするわけにはいけませんもの」


 解らんでもないが……エプロンってのは要するに作業着だぞ? あまりゴテゴテした飾りが付いているのは、事故の原因になったりはしないのか? 引火とか。


「その手のノウハウはそれなりに豊富ですもの。今更しくじったりはいたしませんわ」


 ――ここまでの会話からも見当が付くと思うが、うちのクラスの連中は皆自前でエプロンを用意している。……各人各様に凝ったデザインのエプロンをな。

 一応、持っていない生徒には学園が貸与する事になってはいるんだが……


「あんな不細工な作業着、断じて()(めん)(こうむ)りますわ」

「いや、不細工ってな……一応、この学園の厨房職員の制服だぞ?」


 この実習、厨房の職員さん――()(ちゅう)(いん)っていうらしいが――が担当してくれているんで、貸与する服も厨房の作業着。衛生面を重視したデザインで、所謂(いわゆる)割烹(かっぽう)()」ってやつだ。……少し病院の手術着っぽくもあるけどな。

 庶民派の生徒は大人しくそれを借りるようだが、お嬢の言うように、貴族階級の生徒からは不細工だの何だのと不評らしい。なので自前のエプロンを用意するみたいだ。

 ……四年間の学園生活の中で、調理実習が何時間あると思ってるんだ。これだから貴族ってやつらは……


「ネモさんもご自分のエプロンをお持ちですのね?」

「……実家じゃ俺が食事の支度をする事も多かったからな。ま、お嬢たちのとは違って、安物の布を裁断しただけだが」


 それでも一応、〝母親の手作り〟だったりする。うちの母親、割とまめだからな。


 しかし……学生服にエプロンか。……前世だと、一部の野郎どもが熱狂しそうだな。

 女生徒だけでなく、ジュリアンやコンラート、アスランにエルまでエプロン姿ってのがまた……これ、前世の妹が知ったら血の涙を流すだろうな……


「……何をお考えですの? ネモさん」

「何でもない。それより、そろそろ焼き上がるんじゃないか?」


 実習の手始めは、肉の品質による味の違いってやつの実体験らしい。学園側が何種類かの肉を用意して、シンプルに焼いただけで味の違いを試させるんだそうだ。実社会に出て役に立つ事を狙っているそうだが……


「……結構、底意地の悪さが(うかが)える授業だよな」

「そうかい? 卒業生からは役に立ったって、好評だと聞いたんだけどね」

「まぁ確かに……こういう機会でもなきゃ体験しないってのは解る」


 そういう意味では、確かに有意義な授業なんだろう。


「聞き損ねたんだが、焼いてるのは何の肉なんだ? 同じ種類の肉でないと、品質の違いなんか較べられんだろ?」


 魔獣の肉だと用意するのは大変だろうと思って訊いたら、家畜の肉らしい。


「オーロックスだろうね、多分」

「オーロックス?」


 ……前世でも聞いた事のある名前だな。確か、シベリアからヨーロッパにかけて棲息していた、家畜牛の原種じゃなかったか? 地球じゃとっくに絶滅してた筈だが。


「肉用の家畜と言えば、大抵はオーロックスだよ。イノシシ系のものは家畜にした例が少なくってね」


 ……これも、思い当たる節があるな。ウシやウマは人間が食べられない草で飼育できるけど、イノシシというか豚の餌は人間の食料と(かぶ)ってるからなぁ。餌の点で競合するから、家畜化する旨味が少ないんだろう。あと、豚は水浴びとかさせる必要があるんで、乾燥地帯では難しいとも聞いたな。


「そういう理由があるのかぁ……」

「たんなる思い付きだからな? あんまり真面目に取られても困るぞ?」


 前世の地球はともかく、こっちでも同じとは限らんのだからな。


【参考文献】マーヴィン・ハリス「食と文化の謎」


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