第三十二章 オルラント王城 3.密談(その1)
~No-Side~
査問会を終えた国王レオナード三世は、数名の腹心と共に執務室へ籠もった。ただしその中には、魔導学園学園長と第四王子ジュリアン、およびその側近であるコンラート・マヴェルという、常ならぬメンバーも含まれていたが。
「……先代の……余の馬鹿親爺――王がこう吐き捨てた時、一同は礼儀正しく下を向いた――の放漫財政を立て直すために、ジェイズには随分と泥を被ってもらったが……どこで身を過ったのであろうかな」
そう口にする国王の表情は哀しそうであった。
恐らくは財政健全化のための手段であったものが、いつしか目的になってしまったのであろう。……派閥争いのための手段にまで堕しているとは思いたくない――というのが、国王の偽らざる心境であった。
「……幸か不幸か、ジェイズ卿以外の寄生虫どもは、甘い汁を吸うための対象として、王国が存続する事を望んでおりましたからな。謀反人どもとは手を組んでおらぬ様子にございます」
憎々しげに監査院長が報告し、眉間に皺を刻んだ内務卿が頷いて同意を示す。
「財務の立て直しには数年かかるであろうが……忌々しい軛が取れたのを良しとするしかあるまい。それより……」
国王は改めて魔導学園関係者三名――学園長・ジュリアン王子・コンラート――の方に視線を向ける。
「……今度の件では、ネモという学生が最初から最後まで大車輪の活躍を示したという事だが……?」
腹心たちの視線も学園長ら三人に集まった。各自それぞれの思惑から、ネモの事は気になっているのだ。
「……その少年の件を表沙汰にしなかった理由は何となく解るのだが……そもそも如何なる人物なのだ?」
全員の興味は、国王のその一言に尽きる。ネモとは一体何者なのだ?
「そもそも、ディオニクスをあり得ざる魔法とやらで丸焼きにしたとか?」
「武闘会では、彼の『剛剣アレン』を向こうに廻し、すんでのところまで追い詰めたとか?」
「皮革ギルドと魔術ギルド、薬師ギルドのそれぞれに、貴重な素材を提供し続けているとか?」
「今回の件で、最初に叛徒どもの斥候に気付いて仕留めたのも、その少年だとか?」
「自炊実習の会場を、阿鼻叫喚の巷と化した張本人だとか?」
「謀反人どもの襲撃計画を見抜いて、迎撃の采配を執ったとか?」
「生徒たちを嗾して、多角的な視野から今回の反省点を洗い出すようし向けたとか?」
逸材なのは確かだろうが、逸材の度が過ぎていそうな戦歴の数々を並べ立てたところで、改めて国王が問いかける。
「ネモという少年は、一体何者なのだ?」
――が、問われた方だって、どう答えるべきかなど解らない。
「……得体の知れぬところがあるのは確かです。ただ……」
「王国に対して含むところがある――というわけではないようでございます。これはアスラン殿下とその従者のエルメイン君も同意見です」
「寧ろ……本人的には目立たぬよう汲々としているつもりのような……」
――というコンラートの説明には、一同揃って眼を剥いた。言うに事欠いて目立たないように――とは……目立つという意味をどう捉えているのだ?
半日ほどかけてじっくりと問い詰め説教してやりたいと考えたのは、独り監査院長だけではないだろう。