表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/357

第三十二章 オルラント王城 2.査問会 或いは 最低文官(その2)

 ~No-Side~


 ――共犯者ではないのかと指弾された小役人は、必死になって否定する。反逆者の烙印を押されて処刑されるかどうかの瀬戸際である。()(ざま)だの見苦しいだの言ってられるか。



「め、めめめめ……滅相もございません!」

「違うと申すか?」

「言うまでも無き事! 我らはただ――」

「ただ――何じゃ?」



 ただ、予算をピンハネしようとしただけだ――と続けられたらどんなにいいか。


 冷え冷えとした声で追及されるが、小役人はその先を続ける事ができなかった。……あわあわと、言葉を発し得ぬ口を動かすばかりで。


 (さげす)むような視線をくれた後で、国王は特務騎士団団長の方へ顔を向ける。



()(たび)の件では、生徒たちを狙う二つの徒党がおったそうよな?」

「――は、如何(いか)にも」

「そのうち一方……三馬鹿なる者どもの実家を見張っておれば、今回のみならず先だってのディオニクスの一件も、未然に阻止できた筈……とあるが?」

「その儀なれば、否定はいたしませぬ。()れど――」

「――()れど?」

「そのための人員配置の予算を、無駄と断ぜられて削減されては……我らとしても如何(いかん)ともしようがございませんでした」



 ふむ――と(うなず)いた国王は、冷然として沙汰(さた)を下す。――ここは既に詮議のための場ではない――断罪の場なのだ。



「つまり……財務の専横により、王国の安寧が危機に(さら)されておる……そういう事であるな」



 その結論に、重々しく(うなず)いて同意を示す国務卿たち。


 だが――今回の議題はそれだけではない。監査院の長が口を開く。



「今一つ――監査院の方に、財務の者からの告発状が届いております」

「ほぉ……内部告発とな。……聞かせてもらおうか」



 財務卿の眉間の皺が深くなり、役人どもの顔は紙のように白くなった。



「――は。細々した部分を割愛して要約いたしますと、一部の者が国家予算を不当に横領して私腹を肥やしておる(よし)。一例を挙げますと……七年ほど前に財務が職員の保養用として購入いたしました屋敷、当時としては破格の……と言いますか、不当なほどの高値で購入しておりましたが、今年に入ってそれを売却しております。……今度は不当なほどの安値にて。しかも、それに関わった周旋屋が、とある上級職員と(ねんご)ろなる者でございました」

「ふむ……その上級職員とは?」



 ――財務卿の顔が苦しげに歪む。



「ユング・ムーンロウ。ジェイズ・ムーンロウ財務卿の孫でございます。また、()の者には長年に(わた)り部下の女性に狼藉を働きし嫌疑もかかっておる他、色々と余罪もあるようで、未だ詮議中にございます。とりあえず背任横領につきましては有罪が確定しておりますので、ユング・ムーンロウは収監されてございます」

「見苦しき話よな」

(ぎょ)()

「未だ詮議は終わっておらぬと言ったな? ならば今この場にて、王の権限を(もっ)てユング・ムーンロウの貴族籍を剥奪する!」



 それはつまり、量刑に関して一切の手加減を許さぬという、王の意向の表明であった。財務卿は苦しげな表情を見せたが、その口から抗弁の言葉は出なかった。一方、手加減無用との王命を聞いて、断罪される側の小役人たちは震え上がった。財務卿の孫が貴族籍剥奪なら、自分たちはどうなるのか。

 その疑問は()ぐに解けた――王が自ら発した言葉によって。



「……私腹を肥やしておったのは、その者ばかりではあるまい」

(ぎょ)()。末端の者どもに関しましては、今も内偵を進めておりますところにて、(じき)にご報告できるかと存じます」

「うむ。王国に(あだ)()す国賊ども、一匹も余さず成敗(せいばい)いたせ」

「ははっ!」



 ――()()どもの何名かは、もはや失神せんばかりである。



「……では沙汰(さた)を下す。……ムーンロウ家は以後、国務卿の任より外す。それ以外の量刑については、追って沙汰(さた)する。また、財務は当面監査院の全面的な監視下に置く。既に決定された予算は一旦凍結、不審なところが無いと判明せしものから順に施行せよ」

「「「「「はっ!」」」」」



 ――査問会の幕が下りた。

本日21時頃、「マヨヒガ」更新の予定です。宜しければこちらもご笑覧下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ