第三十二章 オルラント王城 1.査問会 或いは 最低文官(その1)
~No-Side~
その日、オルラント王城の一室は沈痛な、或いは厳しい空気が支配していた。その場に集まっているのは、オルラント王国の国務卿たちと監査院長、それらに混じって魔導学園学園長と第四王子ジュリアン、およびその側近であるコンラート・マヴェルの姿もあった。そして……
「……ジェイズよ、このような場に其方を呼ばねばならなくなった事、余としても遺憾に思う」
居心地の悪い雰囲気を振り払うように、沈痛な声で会の口火を切ったのは、オルラント王国国王レオナード三世その人であった。
声をかけられたジェイズ・ムーンロウ財務卿は、無言のまま重々しく頷いた。その様子は既に覚悟を決めているかのようであったが、そうでない者もいたようで――
「お、畏れながら申し上げます。この場は第四王子殿下襲撃の責を問う場とか。ならば、我らがここにいる必要は――」
「誰が汝に発言を許した?」
小役人の見苦しい訴えを、冷徹な声でバッサリと切り捨てたのは内務卿であった。
凍り付くような声を聞いた小役人は、青褪めた顔で口を噤んだ。もはや退っ引きならない状況になっている事を悟ったかのように。
その様子を白けた眼で見ていた国王であったが……何を考えたものか、ふむと小さく頷くと、
「――よい。発言を許可するゆえ、余の問いに答えよ」
「は……ははぃっ!」
――国王による査問会が幕を開けた。
「此度のこの会は、其方が申したとおり、我が第四王子を始めとする王立魔導学園に対する襲撃、それに関わるものである」
けして大きくはないが能く通る、静かではあるが誤魔化しを許さぬ国王の声に、小役人氏は平伏したまま頷く事しかできなかった。
平伏したその背を鞭打つように、国王による弾劾の言葉が続く。
「この場に呼ばれた理由が解らぬと申したな? ならば、余が直々に申し聞かせて遣わそう」
国王は一旦言葉を切ると、一拍置いて続きを口にする。
「――先日、キャンプに同行して謀反人どもとの死闘を繰り広げた者たちより、この件に関する報告書が上がってきた。それによると……充分な人員を手配できておれば、此度の件は未然に防ぐ事ができておった筈――とある」
国王は再び言葉を切ると、ジロリと小役人を睨め付けてから言葉を継いだ。
――決定的なその言葉を。
「……充分な予算さえ与えられておれば――とな」
平伏したままヒクっと身動ぎした小役人、目を瞑ったまま無言のムーンロウ財務卿、そして……その後ろで顔を青くして硬直したままの木っ端役人たちをジロ~~~リと眺めた後で、国王は冷たい声で問う。
「――此度の警備計画……当初の案を無駄と断じて削減したのは、他ならぬ其方であったそうな?」
小役人は身を伏せたままガタガタと震えるばかりで答えない。
「……一部では、刺客どもの襲撃を成功させんがために、敢えて警備の手を抜かせた……そうなるように予算を画策した――という声も上がっておるのだが?」