第三十一章 冒険者ギルド 1.帰還報告
~Side ネモ~
王都に戻って来た翌日は光の日――日本風に言えば日曜日――だったので、俺は朝から冒険者ギルドに出勤した。夕べは帰ってくるのが遅かったからな。疲れてもいたし、勝手ながらギルドへの報告は翌日廻しにさせてもらったわけだ。
帰還が一日遅れた事も含めて、ギルドに報告すべき事は色々ある。……報告できない事も同じくらいあるんだけどな。表沙汰にできない裏事情については、上層部のお偉方がギルマスに説明してくれるらしいんで、任せる事にした。何を話して良いのか悪いのかなんか、一介の学生にゃ判らんからな。
「おや、ネモ君」
「大変だったそうだな。で――何があったんだ?」
……〝大変だったそうだな〟と言うからには、ギルマスは事情を知ってるんだろうけど……だとしたら何で改めて質問するんだ?
「あぁ、大雑把な事は上の方から聞いていますし、ネモ君の一存では話せない事も解っています。ただですね……騎士団の方々がネモ君の事を訊きに来られましてね……」
「騎士団? ……特務騎士団ですか? それとも親衛騎士団?」
「両方だな」
「――はい?」
おぃおぃ……俺は魔導学園の生徒だぞ? 何で騎士団に目を付けられなきゃならんのだ。
「儂らもそいつが訊きたいんだがな。ネモ……お前、一体何をやらかした?」
……やらかした自覚は色々とある。ただ……弁護させてもらえれば不可抗力……と言うか、半ば強制されたようなものだ。……俺のせいじゃない……多分……
「まぁ、騎士団から来られた方も、理由が能く解っていないようでしたけどね」
ほぉ……すると、詳しい事情は抜きで、ただ俺の事を調べてこいって言われたのか? 言われた方も災難だな。
「ただ、私が受けた感じでは、ネモ君に悪い印象を持っているようではありませんでしたね。ネモ君の事についても、了承を得た上で差し支えの無い範囲で――と言っていましたから」
「……じゃあ、俺の返事待ちって事ですか?」
「いえいえ、手ぶらで帰すのも申し訳無かったので、差し支え無いだろうと思われる範囲で教えて差し上げましたよ。――ネモ君はまだ見習いのため、ギルドとしては受付以外の依頼はほとんど出していない、ゆえに戦闘技術などに関しては、何の情報も提供できない――ってね」
おぉ……さすがサブマス。理想的な対応だな。
「ま、ネモの技倆についちゃ、学園の方が詳しいだろうしな。ギルドとしちゃ精々、蛇を狩るのが巧みだって事ぐれぇしか言えねぇわ」
……あぁ……その「称号」についても報告しとくべきだろうな。
「……実はギルマスにサブマス、幾つか報告しておかなきゃならない案件がありまして……」
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「そりゃまた……随分と盛り沢山なキャンプだったみてぇだな」
「魔力を吸収するスライムに【従魔術】、それに『蛇狩り職人』の称号ですか……」
「【従魔術】と称号は問題無ぇが……」
「えぇ、テイムしたスライムが特別だという事は、表沙汰にしない方が良いでしょうね。学園側もそれを望むと思いますよ?」
「多分だが、騎士団の連中もな」
あぁ……言われてみれば……魔法攻撃が通じないスライムの存在なんて、見方によっちゃ厄介事でしかないか。黙っといた方が無難だな。
「単に普通のスライムをテイムした――という事にしておけばいいでしょう」
「解りました。その線でお願いします」
「それにしても【従魔術】ですか……ギルマス、これは……」
「あぁ、講習を申請した方が良いだろうな」
「……講習?」
ギルマスによると、【従魔術】のスキルを持っていない者が動物や魔獣に懐かれるというのは、時々ある事なんだそうだ。それが切っ掛けとなって【従魔術】のスキルが生える事もある――コンラートのやつもそんな事を言ってたな――そうだが、仮に生えてこなかったとしても、【従魔術】について知っておく事は無駄ではないわけで……そういう者のために、申請制の従魔術講習というものがあるらしい。さすがに費用は申請者持ちだそうだが……
「なに、ネモなら充分支払える額だから、気にすんな」
「学園でも【従魔術】の講義はありますが、確か二年からの選択科目だったと思いますよ。従魔術や召喚術は本人の適性が必要となり、万人向けではありませんからね」
つまり、俺が早急に【従魔術】の知識を得ようとするなら、冒険者ギルドの講習を受けるのが一番だって事だな。ヴィクと契約した以上は、主として無責任な真似もできん。
「手続きの方をお願いします」
「解りました。日程が決まり次第報せますよ」
報告も済んだし、そのまま受付業務に入ろうとしたところで――