第三十章 襲撃検討会 6.防衛側の反省点(その2)
~Side アスラン~
「あと、問題点と言えば……?」
「キャンプハウスじゃないか? 魔法攻撃への対策とかが甘かったし」
「いや――放火対策の事ならネモも言ってたじゃないか。仮に建物本体に防火対策がしてあっても、周りに薪でも積まれて火をかけられたら同じだって」
「……そうだな。本気で焼き殺すというならともかく、今回のように誘き出すために火事を演出されたら、防火対策はあまり効果が無いな。煙で燻し殺すという手だって考えられるわけだし。……防火対策が不要と言うわけじゃないが」
マヴェル君の言うとおりだな。そういう意味では、今回の刺客たちはそれなりに能く考えていた。
「あ、いや――そっちじゃないんだ。さっきバンクロフツ隊長が言ってたろ? ハウス内で火魔法を手当たり次第にぶっ放されたら――って。短時間での防火対策とかじゃなくて、魔法攻撃そのものを永続的に無効化できるようなエンチャントがあれば……って思ったんだが……」
……ヴィク君がやらかしてくれたような事か。僕も魔術師の端くれだから解るんだけど……それはかなり難しいと思うな。
「……詳しくは私も知らないが……それは一種の結界だろう。それも、かなり高度な魔術結界の筈だ。それに、必要な魔力が莫大になるんじゃなかったか?」
――マヴェル君の言うとおりだね。普通の抗力結界の方が、まだ簡単だと思うよ。
「そっか……魔力量までは考えなかったな」
「いや待て、似たような魔術付与が無かったか?」
「あれは飽くまで、付与した対象への攻撃を無力化するだけだ。キャンプハウスにそれを付与しても……」
「あぁ……ハウスは無事で、中の人間はお陀仏って事になんのか……」
「もう一つ言っておくと、そういう結界は割と簡単にバレる筈だぞ?」
「確かに、魔力の流れを探れば一目瞭然だろうな」
「当然、襲撃側もそれなりの対策を講じてくる――か」
結局はいたちごっこに陥る事になるわけだ。故国でも能く問題になっていたな……
「……そういう意味だと、今回のエンチャントは上手くいってたのか?」
「建物の内側にだけ防火のエンチャントをかけたものねぇ。……その後で偽装もかけてたし……多分、簡単には判らなかったと思うわよ」
……あれは実際に見事だった。僕らが立て籠もった部屋も、先生方が内側からガチガチにエンチャントをかけたけど、外から一見しただけでは判りにくかったからね。
発案者はBクラスのアグネス嬢だったが……あれは今後のスタンダードになるかもしれないな。何しろ、火攻めで息苦しくなる事まで考えて、周到なエンチャントを張り巡らせたからねぇ……
「立て籠もるのはいいんだけどさ、外の様子が判らないってのは退屈……じゃなくて、やっぱ拙いんじゃないか?」
「おぃカルベイン、本音が漏れてるぞ。……とは言え、重要な指摘ではあるな」
「覗き窓でも造れというのか?」
「と言うかだな……ハウス内外の各場所の様子を、室内に居ながらにして監視できるような、そういう仕組みがあれば便利だったんじゃねぇか?」
ネモ君の発言に――僕も含めて――全員がポカーンとしてたけど……考えてみれば、これは重要な提案だ。そういう監視の仕組みがあれば、ヴィク君のような優秀な斥候がいなくても、十全に対応できた筈だ。
……どうして誰も思い付かなかったんだろう……?
「……ネモ、その話はこれ以上するな。このまま上層部へ秘密裡に具申する。……皆もこの件は忘れてくれ」
――マヴェル君の言うとおりだな。これ以上は学生の検討会の範囲を超える。騎士団のお二方も、真剣な表情で頷いてるし。
……だったら、僕からも一つ提案しておこうかな?
「差し出がましいけど、一ついいだろうか?」
「リンドローム卿? 何でしょうか?」
「ネモ君の事だけど……」
「俺が何だってんだ?」
「うん。王家とかそのレベルの上層部はいいとしても、中間管理職にまでネモ君の事を広めるのはどうかと思う。……どこにでも奸物とか小役人というのはいるものだしね」
――そう言うと、全員が考え込んでくれた。
「……おっしゃるとおりですわね。殊勲者のネモさんに迷惑がかかる事は避けるべきですわ」
「……だな。ただでさえネモは目立ってんだ。これ以上悪目立ちすると、碌な事にならん」
「……今更遅いというのは気のせいか? ……いや……隠す事には賛成なんだが……」
「てか、今回色々と馬鹿をやってくれただろう小役人に、ネモの事を教えてやる義理は無いよな」
「賛成!」
「……どうせ今度の一件で、頭でっかちの馬鹿どもは責任を取らされる筈だ。王家の一員として、ネモに逆恨みを押し付けるわけにはいかない。……詳細は僕の方から父上に報告しておくよ」
「……すまんなフォース、世話をかける。……リンドロームにも感謝する」
僕らだって、これくらいの事はしておかないとね。