第三十章 襲撃検討会 5.防衛側の反省点(その1)
~Side コンラート~
賊徒の立場から襲撃計画を反省するというのは新鮮な体験だったが……本命はここから、守る側としてどのような点を反省すべきかだろう。
「……やはり、情報収集の面で不備があったのが大きくないか? 今回はネモっていう反則がいたけど」
「おぃ……言うに事欠いて、人の事を反則呼ばわりたぁ何だ」
「い、いや……だってネモがここまで疑り深くなかったら、刺客の襲撃を予想できなかっただろう?」
「お前な……学園側がそこまで無能無策なわけがないだろうが。ちゃあんと予測していたとも。騎士団の皆さんが随行して下さったのが、何よりの証拠だろうが」
ネモはあぁ言うが、そもそもネモが斥候に気付かなければ、ここまでの警戒はしなかったかもしれない。
「まぁ……その点は認めるに吝かじゃねぇが……」
「言い換えると、ネモの代わりが務まるだけの斥候を、こっちも用意するべきだったって事だよな」
「……ネモさんの代わりが務まる斥候というのがいるかどうかは別として……主旨はそういう事ですわね」
「逆に、護衛の人数は足りてたよな?」
「だね。学園の警備員もいたし」
「――いや、今回は特務騎士団と親衛騎士団が参加してくれたけど、これは常態とは違う筈だぞ? 殿下たちがいればこその人員配置だった筈だ」
「……殿下たちがいなかったら、俺らみたいなのは襲われる価値も無いんじゃないのか?」
……拙いなこれは。襲われたのは殿下たちの巻き添えという流れになりかねん。
「お目出てぇ事を言ってんじゃねぇよ。確かにフォースたちゃ狙いでのあるエサだろうが……」
(「エサ……」)
殿下……お気持ちは解りますが、今はネモの話を聴きましょう。
「……俺たちゃ魔導学園の生徒、端からみりゃ充分なエリートなんだぞ? 警備が手薄な隙に乗じて、適当に生徒を数名殺害する。……学園の警備体制を、延いては王国の態度を糾弾する声が上がるだろうな。学園に入学しなかったら、我が子はまだ生きていたかもしれない……そんな声が大勢を占めたら、王国の方針自体が揺るぎかねんだろうが」
反体制側がそれに気付いていれば、一般生徒が狙われる懸念が消える事は無い……ネモの指摘は劇薬だな。全員が一気に真剣な表情になった。
「……やっぱり、斥候職を中心とする警備体制を構築すべきだね」
「そう言えば……往きに護ってくれてた護衛の人たち……隠れてるつもりだったみたいだけど……」
「……バレバレだったよね……」
「さすがに、ずーっと同じ顔ぶれが並んで歩いてればねぇ……」
……あれは私でも気が付いた。ネモやエルメインは早くから気付いていたようだが……
「人手不足なのかな?」
「王族の護衛を放って置いてか?」
……確かに、この件は私からも父上に報告するべきだろう。
「人手不足と言えば……とっ捕まえた刺客を護送するための手配も、何もされてなかったっぽいぞ。先生たちが憤慨してた」
「来る途中で斥候を捕縛したんだろう? 刺客が来るのは予想できただろうし……撃退に成功すると確信してたとしても、護送の手配は必要だろうに」
「来る途中で捕縛した斥候は訊問中に死んだ、その事実をどう考えてるんだ?」
……恐らくは何も考えていないのだろうな。表面的な事だけをざっと検討し、具体的な検討は何もやってこなかったんだろう。……もしくは……経費か労力を理由に、財務に却下されたか? ……こっちの方がありそうだな……
「呪いを解いた後は、魔法薬で眠らせるって言ってたよな」
「その魔法薬の材料も、ネモの提供だってんだから……」
「……蛇の毒って凄いんだな……」
「そうだけど……そっちじゃなくて……」
「事前に用意がなされてない事が問題なんだろうが」
「想像力が足りてませんよね」
……言い得て妙だな。あれは……確かDクラスの……レベッカ嬢だったか?