第三十章 襲撃検討会 4.襲撃側の視点(その3)
~Side バンクロフツ隊長~
「情報収集で後手に廻った結果、飛んで火に入る夏の虫になったのは事実だけど……どこかで巻き返す事はできなかったのかな?」
「確かに……こっちだって結局、泥縄で迎え撃つしかできなかったわけだし」
……アレを泥縄と言われちゃ、俺らの立つ瀬が無ぇんだが……
(「泥縄と言うには周到な迎撃計画だったと思うが……」)
(「……やっぱり旦那もそう思うか?」)
(「あぁ。まるで賊どもの動きが判っているような采配だった」)
(「全くだ。だが、説明されてみりゃあ納得できるんだよな」)
――キャンプハウスはそれなりに堅固に造られている。従って、刺客としちゃあ籠城されるなぁ拙いわけで、だとしたらガキどもを誘き出すしか無ぇ。
そこで小火でも起こしてやりゃあ、学園側としても脱出させるしか無ぇからな。今回は違ったが、仮にキャンプハウスに防火の魔法付与をかけてあっても、周りに可燃物を積まれて放火されちまえば結果は同じ。……これもあの坊主の意見なんだが……全く……どんな育ち方をすりゃ、あそこまで悪知恵が回るんだか。敵に廻ってなくて良かったぜ。
……ともあれだ、それでガキどもが泡喰って逃げ出してくりゃそれで良し、そうでなければ善意の救援者を演じて内部に侵入――って……確かに言われてみりゃ筋の通った推測なんだが……あぁもピタリと読み当てられると、ちったぁ勘繰りたくもなろうってもんだ。
(「バンクロフツ君も、あの少年の事は探らせるよう指示したのだろう?」)
(「ま、な。ただ……こっちゃ前からあの坊主の事ぁ……話だけは知っててな」)
ディオニクスの件を話してやると、マクルーアの旦那も驚いていたな。一応、冒険者ギルドも坊主の為人を保証してるしな。
おっと……話し込んでるうちに、ガキどもの検討が進んでらぁ。謹聴謹聴。
「……屋内のバリケードの事を知らずに突っ込んで来たのも、偵察が甘かったのが原因だよな」
「その前に、Dクラスの女生徒にあっさり騙されたのはどうかと思うが……」
「……そこはスルーしておこう。でないと、話が妙な方向に脱線しそうな気がする」
「――ちょっと男子、それってどういう意味?」
あぁ……あの小僧、余計な地雷踏みやがった。……揉めそうなところを、ネモの坊主が何とか収めたか。
「突入後の動きに焦点を絞ろうぜ……」
「……そうですね。犯人たちが屋内に突入した後に、挽回のチャンスがあったかどうかという事になりますけど……」
「これは俺たちじゃ判らないんじゃないか? 現場に立ち会ってなかったわけだし」
「そうだな。……申し訳ありませんが、当事者の意見を伺えますか?」
おっと……待ち伏せ班の出番ってわけかぃ。
「そうだな……結果だけ見りゃ、やつらは後手に廻り続けてたわけだが……面倒な事態になりそうな局面は二つあったな」
第一は、内部の様子が変わっていた時点で待ち伏せの可能性に気づき、火魔法とかで破壊活動に専念された場合だ。坊ちゃん方はガチガチに固めた部屋に立て籠もって、親衛騎士団が傍に付いていたから大丈夫だったろうが……破壊活動に紛れて脱出され、見境無しの攻撃を仕掛けられてたら……犠牲が出なかったたぁ楽観できねぇな。
第二は煙幕を使われた時だ。あん時ゃ完全にこっちが後手に廻っちまった。嬢ちゃんがスライムを連れて出て来てくれなかったら、ドジ踏んじまってたかもな。……まぁ、あのスライムは色々と反則っぽかったが……
「なるほど……結構際どい場面もあったんですね」
「逆に言えば、そこでそういう判断をさせない流れに持ち込んだってのが、こっちの一番の勝因かもな」
一度たりとも相手に主導権を渡さず、最初から最後までいいように引き摺り廻す……そうする事で、適切な判断を下す余裕を敵から奪う……理屈の上じゃ解ってたが、上手く嵌まったら、これほどおっかねぇ手は無ぇな。