第三十章 襲撃検討会 3.襲撃側の視点(その2)
~Side マクルーア隊長~
「そう言えば……」
少年の一人が、ふと気が付いたというように呟いた。確か、カルベインとかいう少年だ。
「何だ?」
「いや……曲者のやつら、こっちにネモがいるって事、気付いてなかったのかな?」
気付いていれば、もう一工夫ぐらいありそうなものだ――と言うのだが……
「……言われてみれば、芸の無い襲撃だったよな。……いや、別に不満があるわけじゃないんだが……」
「馬鹿正直というか……ネモがいるんなら、もっと大掛かりでもおかしくないよな?」
「投石機とか攻城塔とかか?」
「竜騎兵とか飛竜とかな」
「お前ら……俺を何だと……」
ネモ少年は不服のようだが……自分も同感だ。横でバンクロフツ君も頷いているし。
「あぁ……それなんだが……」
殿下の側近の少年が、何か言いたげに口を開いた。マヴェルといったか?
「……ネモは世間では、イズメイル道場の客分と見做されている。少なくとも、魔導学園の生徒だとは思われていない。……と言うか、信じられていない」
どうやら、ネモ少年が目立ちたくないと言っていたのを踏まえて、武闘会の後にそれとなく探らせていたらしい。これにはネモ少年も驚き、そして感謝しているな。
(「……こういうところに気が廻るのが、将来の宰相候補と言われる所以なんだろうな……」)
隣でバンクロフツ君が感心しているが……同感だな。人の上に立つ身として、自分も見習わねばならないだろう。
「……やつらもネモがいるなんて思わなかったというわけか……」
「まぁ……解らなくもないよな」
「腐っても魔導学園ですからね、ここは」
「ネモみたいな武闘派がいるなんて、思わないよな、普通は」
「そうだな、普通は」
「お前ら……俺が普通じゃないみたいな言い方を……」
(「「――あ?」」)
……いかん。思わず声が漏れた。……バンクロフツ君もだが……気付かれてはいないな。……生徒たちも同じようなものだったし。
「おぃおぃネモ……普通の学生は、大陸七剣の一人と互角に打ち合ったりしないんだぜ?」
「況して魔導学園ですよ、ここ?」
「それも初等部」
「魔術戦ならともかく、剣技で覇を競ったりはしないわよね。普通は」
「騎士学園の生徒ならやれる――とは言わないけどな」
「いや……騎士団だって難しいんじゃないのか?」
……生徒たちの視線がこちらを向いたので、騎士団の一角を預かる者として、バンクロフツ君ともども――力強く頷いておいた。
何でもありの実戦ならまだしも、試合であそこまでやれる自信は自分には無い。バンクロフツ君も同じだろう。
……とは言え、実戦なら勝てるというつもりも無いが。「剛剣」アレンも、実力の半分も出していなかっただろうしな。……それはネモ少年も同じだろうが。
「……まぁ……要するにネモの存在は、やつらにとっても想定外の要因だったという事だな」
「逆に言えば、僕らは運が好かったとも言えるんじゃないか?」
「まぁな。だが、〝運が好かった〟という結論で終わらせないのが、この会の目的だろう?」
「確かにな」
そう言って、生徒たちは討議に戻った。
(「……魔術師としてどうなのかは知らんが……普通に出来の良い学生たちだな」)
自分もそう思うよ、バンクロフツ君。