第三十章 襲撃検討会 2.襲撃側の視点(その1)
~Side マクルーア隊長~
「……やっぱり、計画が読まれてたのが致命的だよな」
「それもだが……こっちの動きを掴みきれないままに、以前の計画をそのまま使用したのが問題じゃないか?」
「状況の変化に対応できてない……と言うか、気付かなかった?」
「情報収集の面で後手に廻った感じよね」
生徒たちが面白い試みをやろうとしていると聞いて、バンクロフツ君と一緒に見学させてもらっているのだが……思っていた以上に参考になる。生徒の自主性を尊重して、口を挟むのは最小限にしてほしいと言われたが……介入の必要など無さそうだな。
「やつらだって斥候ぐらい用意してたんだろうが……」
「確か、来る途中にネモが仕留めたんだよな?」
「まぁな。正確に言うと斥候なのかどうかは判らんが、覗き見してたやつに石をぶつけてやったのは事実だ」
「その点はどうなんですか?」
おっと、話がこっちへ廻って来たか。
「確保した二名は訊問の最中に死んだそうで、自白は得られていないが……装備品などから斥候職なのは間違い無い。……いや、誤解してほしくないのだが、拷問が過ぎて死んだとかではない。一定時間後に解呪しないと命を奪われる……そういった呪いをかけられていたらしい。恐らくは自決用だろうと考えられている」
騎士団が責め殺したなどと誤解されては堪らん。誤解は解いておかなくてはな。
「そこまでの覚悟をもって凶行に臨んだわけですか……」
「ノリと勢いだけの連中じゃなさそうだな……」
生徒たちには少し刺激が強過ぎたか?
「相手が何者かの詮索は、この会の趣旨じゃねぇ。間違えるな」
「――そうだな。今は襲撃側の立場から、犯行の問題点を検討するべきだ」
ふむ。ネモ少年がすぐに会議の流れを戻したか。好い判断だ。
(「……アレができるだけで、ウチの若いやつらより上等だな」)
バンクロフツ君がぼやいているが……自分も同感だ。検討会の趣旨から外れないようにというのもあるが、どんよりしかけた雰囲気を吹っ切ったのが大きい。ネガティブな雰囲気からは、得てしてネガティブな考えしか生まれんからな。
「すると……問題はネモが斥候を仕留めた事か?」
「おぃ……俺がヘマしたように言うんじゃねぇよ。ここはやつらのヘマを糾弾する場だろうが」
「あ、あぁ……すまない」
「視点を変えると……虎の子の斥候を、二人とも偵察に出したのが敗因か?」
「と言うか……斥候職の数が足りなかったとか?」
「そうは言えないんじゃない? 総勢八名のうち、二名までが斥候なのよ?」
「いや……一般的な編成がどうかは別として、今回のような特殊任務の場合、もっと偵察要員を増やしてもよかったんじゃないのか?」
普通なら、一個大隊に偵察兵二個小隊というところだから、賊どもの偵察戦力はかなり重厚だったと言える。しかし、結果から見ると……
(「……斥候が足りてなかったってのは、強ち間違いじゃねぇな」)
(「……そうだな。少人数での特殊任務の場合、偵察戦力は高めにしておくべきのようだ。王都へ帰ったら具申の必要があるな」)
(「へっ、どうせ財務の頭でっかちどもに蹴られて終わりだろ?」)
(「バンクロフツ隊長ともあろうものが、随分と弱気じゃないか。今回の一件は、人員さえ充実していればもっと違った展開になった筈……学生たちの検討結果を報告書に纏めてもらって、それを添えて具申してやれば……」)
(「……財務のクソどもに、一泡吹かせられるってか? 面白ぇ、一口乗せてもらうぜ」)
――そういう意味でも、この検討会は有意義なものになりそうだ。